隣人
隣 人
むらさき荘──。ここは女人禁制の格安アパートである。最寄りの駅から徒歩十五分。周囲に大きな道路は無く、代わりに子供が安心して遊べる小さな公園がある。
閑静な住宅街の奥地に位置する、一見木造二階建ての良くあるもの。
蔓草に犯された外観はお世辞にも綺麗とは言えず、否が応でも歴史を感じさせる黄ばんだペンキは、随分と塗り重ねられているのに所々が既に剥げかかって赤錆が浮いている。
防犯面も然程気を遣っている様子も無く、薄っぺらいドアには数多の住民の手垢が刷り込まれた銀色のノブが取り付けられていて、その上に時代錯誤の鍵穴が一つ。全室風呂トイレ別の1LDKと言う申し分無い広さに比べて家賃が安い事だけが売りだ。
そんなこのアパートに住まう条件はただ一つ。
『男であり、そして、男を愛す者である事』
但しこれは、当然公に公表されているものでは無い。何時しか人から人へ言い伝えられた、謂わば都市伝説に過ぎない……のかも知れない。
低い天井、古い板間の床の下、薄い壁の、向こう側──隣人達の一風変わった日常を、少しだけ覗いて見ませんか?
*不定期更新、一話追加毎完結設定にしていきますのでご了承下さい*