静物
◆[第1章 全ての始まり。](1/5)
私は雑誌の出版会社で働いている。
雑誌の出版会社といえば、お洒落な仕事だと思っていた。
なのに、いつも雑用ばかりで、さすがに嫌気がさしていた。
そんなある日、私に廃墟取材の仕事が入った。
今まで取材など、したこともなかったこの私に。
だから、尚更他の社員にやらすまでもない仕事なのだと感じた。
断りたかった。
なんで、私が。
そう言って泣きたい気分だった。
でも、私は笑顔でいるしかなかった。
そんな立場なのだと、とっくに理解していたから。
「わかりました。それでは、詳しく日付等を伺ってもよろしいですか」
私が笑顔でそう言うと、いかにも満足そうに、べらべらとつまらない説明を並べられた。
「今ので詳しいことはわかったわね」
真赤な唇に白い肌の作り物丸出しの顔で、彼女は私を嘲笑うかのようにそう言った。
「はい。でも、あの…1人でということは、写真は私が撮るのですか」
「だって、貴方はたしか、写真部だったでしょう」
「ええ。高校生のときに」
「貴方の唯一の特技なんだから、発揮したらどうかしら」
そう言うと、砂嵐みたいなロングヘアを揺らしながら去って行った。
「私は…」
なんのために。
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