夢屋

[あなたの夢を買いますU⇒1/5]





閑散とした住宅街から少しだけ離れたビルの4階にそこはあった。最近建てられたのかまだ新しいビルは外観も綺麗だし内装だって文句はない。


白で基調された一室には、事務所として使用されている。


夢屋。


怪しい響きの事務所だ。私は静かにそう、思いながら連れられてくるままに入った。中央に鎮座するしっかりとした皮のソファにテーブル。



「そこのソファに座っておいて。昴(スバル)いるかい。」

「はい。いますよ。」

「お客さんだからお茶お願い。


「はい。」



どうやら、ここには私とこの男以外に昴と言う少年がいるみたいだった。なぜに少年だと分かったかと言うと声がまだ幼かったからだ。


私はそんな昴くんと男性のやり取りを聞きながら言われたソファに座ると、向かい側に男性が座った。


それと同時にカチャカチャと音を鳴らしてお盆に3人分のお茶を乗せて昴くんが現れた。


正直に息をのんだ。この男の人も息を飲むほどの美貌はあるが昴くんも負けず劣らずだった。ふわふわの栗毛に、大粒の瞳、ぷっくりとした唇に飛び抜けて白い肌。女を辞めたくなる瞬間とはこのことを言うのだろうか。


半ば絶望を覚えていた私のことなど知らずに、昴くんはそれぞれの所にお茶をおいて行く。自分の分もその男の横に置くと自分も男の横に座る。


男性はお茶を持つとそっとカップに口をつけて啜る。そして、再びテーブルにおいて私を見やる。



「さて。まずは自己紹介からだね。僕は夢屋を営んでいるオーナー。長谷部香(ハセベ コウ)だよ。長い谷に部。香ると書いてコウと読む。是非君からは香と呼んで欲しいな。」



そう言って香さんは私に名刺をくれた。夢屋と上に書かれ、長谷部香、そして電話番号まで丁寧に書いてある。私はそれを受け取りながらこくりと頷いた。



「堀川咲(ホリカワ エミ)といいます。掘りの川に咲くと書いてエミです。」

「うん。いい名前だね。」

「あ、俺は吉田昴(ヨシダ スバル)だよ。宜しく!昴って呼んで。」

「あ、はい。」



それぞれの自己紹介が一旦終わる3人はそれぞれお茶に手をつけた。この一瞬で少しだけ緊張が緩和されたと私は空気で感じたのだった。







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