あなたがほしい
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「はぁぁ……行くのやめようかな?」



朝から支度はしたが、希望に満ちた新入生がキラキラした目で初登校する入学式は優希(ゆき)の気持ちを逆に曇らせていた



ピンポーン



そんな優希の気持ちなどお構い無しに幼馴染みのノンちゃんは明るく元気に「ゆきちゃ〜ん 行くよぉ〜っ」とインターホンもいらないくらい大声で呼びに来た



『うるさいなぁ……あの子には声のボリューム調整機能がないのか?
はぁっ……しかたない、行くか……』



「本当にそれで行くんだ?」


ドアを開けて優希を見たノンちゃんは少し眉間にシワを寄せながら苦笑いをした


それもそのはずで、今日から中学生になる新入生の優希がヤンキーの中でもかなり厚塗りのメイクをして、髪の毛も金髪になって登場したから彼女の反応は決して間違いではない



そんな彼女を見て不機嫌丸出しな表情で「チッ……だからわざわざ私を呼びに来なくていいって言ったのに」と舌打ちをして言うとノンちゃんは少し微笑んだ


「だってゆきちゃん絶対サボりそうな気がしてたもん
いいじゃん、どうせ通学路だし毎日一緒に行こうよ」



幼い頃から仲良しでお互いの性格も知り尽くしている関係なので彼女も優希を理解していたが、優希も彼女のこういう部分は理解していて優希が言っても聞き入れない事もわかっているので「はあっ……」と、大きなため息で答えた



「でさ、違う小学校の地区から来る人達はどんな人がいるのかな?
強くてカッコいい人いないかなぁ〜」


「ずっとそれ気にしてるね
ノンちゃんは喋らなきゃ可愛いから大人しくしとけば彼氏くらいすぐに出来るって」


「だってさ〜、うちらの学区って超生徒数が少なかったからやっぱ他の地区の人って気にならない?
聞いた話だとヤンキーとか多いしらしいしさ
まぁカッコ良きゃヤンキーでもいいけど……身近に超厚化粧のクソヤンキーがいるから怖がられて普通の人とはやっぱ無理かな〜」


「チッ……だったら一人で学校行きゃいいでしょ!
て言うかさ、私はそれもあって中学では他人のふりして私に話しかなくてもいいよって前から何回も言ったじゃん
私は友達いらないの!
卒業まで一人で過ごすんだから」


「もぉ〜 まだそんな事言ってるし〜
ゆきちゃんを無視するくらいなら私もレディースに入って一緒にいるって何度も言ったでしょ」



彼女は超ポジティブで明るく誰とでも仲良くなれるコミニュケーション能力が異常に高い人なのだが性格に難があり、基本的に人の話を最後まで聞かずにワガママでマイペースな超自己チュー人間なのだが何故か周りからは可愛がられるタイプで、ゆきもこんなノンちゃんが大好きだったので彼女には唯一心を開いていた


そんな彼女はたまにこのような事を恥ずかし気もなく言ってきてゆきは反論に困ってしまう



「あんたは入るな!
て言うか、入ろうとしたら私が阻止するし」


「アハハハハッ
じゃあ諦めて中学でも今まで通り仲良しコンビとしてやっていこうね
でもさ、でもさ、うちの学校って2つか3つの族のチームがあるみたいだから学校で喧嘩とかたまにあるらしいからゆきちゃんも気をつけてよ」



優希達がこれから通う中学は周辺にある4つの小学校が合わさった学校で生徒数も多いマンモス校だ



しかし、少し数キロ先には別の中学があり、創立当時は生徒数も同じくらいだったらしいのだが、優希の中学の地区が再開発地域になった事で大きな団地がいくつかできたり大きな工場や、見渡す限りに拡がっていた田んぼを埋め立てて住宅街や商店街ができたりして発展はしたが、別の中学の学区はほとんど発展もなかったので今では生徒数に大きな差ができた



その関係もあるのかはわからないが、隣地区の中学とはヤンキー同士で対立する事もしばしばあり、優希の通う中学にも他校がメインとなる暴走族に所属している生徒も結構いた


そしてゆきは事情があって市内にいくつかある暴走族やレディースにも入っていてその辺りのいざこざはよく知った物だったので特に恐れはなかったがノンちゃんに被害が及ぶのを恐れて彼女には関係ない人のふりをして生活するように言ったのだが予想通り全く聞く耳を持たず今朝もこうして初登校を共にしていた



『ごめんね
ありがと ノンちゃん』



気持ち的には感謝もあるが口には出せずに
「あんたは余分は一言をそこら中で言い過ぎりるから私よりノンちゃんの方が絡まれやすいわ」
と不機嫌な表情を緩めて少し笑いながら言うと彼女も「うりるさいな〜そもそもゆきちゃんがね〜」など応戦してきて少し気持ちも和らぎながら学校へと歩いていた


優希達は学校から一番近い学区なので自転車でもいいのだが基本的には徒歩通学の範囲で、その他の地区から通う人がメインで使う通学路とは別に、近道となる地元民しか使わない田んぼ道で向かった


遠目に見えるメインの通学路は中学が近づくにつれて生徒も増えているのは見えていて、優希達は人が多い正門ではなく生徒でもほとんど使わないフェンスの扉のある東口から中学の敷地に入った



「うちらだけだね
何かさ、別に悪い事してないけど何かコソコソしてるみたいでドキドキするね」


「ノンちゃんは心当たりが多すぎるかでしょ」


「バカっ な、何言ってんのよ
私よりゆきちゃんなんて叩けばホコリだらけの体じゃん」


「チリ一つありません!
私は力で口封じしてますから〜」


「それが問題でしょ!
いい? 中学ではなるべく目立たないように大人しくしとくんだよ?」


「そもそもこのメイクと金髪で目立たないってのは無理っしょ?
まっ、でも逆に人が近づいて来なきゃそれはそれで穏やかな学校生活になるからいいんだけどね」


「穏やかな学校生活なんて絶対無理だと思う……」



そんな事を話しながら下駄箱のある学年毎に分かれた昇降口に向かうと、キャッキャと明るく話していた一年生達が優希を目にすると一瞬固まり小声でヒソヒソと話していた



「あの子、誰?」
「一年生だよね?」
「うわっ 超ヤベェやつ」
「あっ、もしかしてあれが佐々木姉妹の妹の方じゃない?」
「げっ、あのレディースのヤバい最強姉妹って噂の妹の方か」



『コソコソと鬱陶しいな
まぁわかってた事とは言っても本当に気分悪っ』


ユキはこうなる事もわかっていたので不機嫌丸出しな表情で一年生を睨むと、ユキから目を逸らすようにしてつい今ではキャッキャと賑わっていた昇降口付近にいた一年生は逃げるようにしてそくささと校舎内に入って行った



「ユキちゃんがいきなり威嚇すりるから〜
まぁコソコソやってるあの人達が悪いのもあるけど……しばらくの間は我慢だからね」



ユキの学区からは同級生も10人と学年の中でも圧倒的に少ないのでユキ自体を知らない人ばかりの環境だから仕方ないのと、2学期の途中の寒くなった辺りから学校には行かなくなっていて卒業式にも出ていなかったので、同じ地区から来る人とも約半年近く会ってもいないので実質ノンちゃん以外は知らない人の中に入るのと同じなのでユキも内心は少しドキドキはしていたのだ


しかしそんな気持ちも隠したいユキは「はいはい……こんなのじゃ怒んないから大丈夫だって」と気だるそうに言うとユキの名前のあった2組に向かった

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