幽玄即興曲
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[04#Rei](1/1)
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 あの頃と変わっていない。

 十数年ぶりに目の前に現れた桐生の印象はそれだった。

 桐生が身を翻して出て行ったあと、怜は昔を顧みた。刑事だということは知っていた。だが、刑事らしくない男だった。



 バーテンのバイトをしていた大学時代、勤め先のJAZZ BARによく来ていた男だった。訪れる曜日も時間もまばらだったが、決まっていつも独りだった。

 フォアローゼズをグラスロックで頼み、演奏の間は静かに目を閉じていた。他の客とも店の人間とも口をきくことはなかった。



 一度だけ。



 一度だけ、言葉を交わしたことがあった。無論、桐生はそんなことはまるで覚えてはいないだろうが。

 それだけだった。




 セックスに誘ったときの桐生の動揺が思い出され、怜をほくそ笑ませた。



 指を舐めたときの反応は、ペニスを舐めたときの反応に似ていると思う。だから、まずはそこで確かめる。

 桐生の味はなかなか悪くなかった。

 質実剛健を絵に描いたようなあの男が、セックスでどんな顔を見せるのか知りたいと思った。

 どんなに紳士の仮面をかぶったとしても、所詮、男なんてものは本能で生きている。いつだって、突っ込んで腰を振りたいと思っている。



 桐生の指の感触と、無粋でいながら奥では欲望を滲ませた目が、怜を捉えて離さなかった。

 身体が疼く。

 それが寝ていないせいなのか、十数年ぶりに現れた男のせいなのかは怜にもわからなかった。



 バーボンのボトルを口につけ、一気に呷った。

 熱い。

 ベッドに移動しようとしたが、ぶつかった壁の冷たさが心地よくて、そのまま壁伝いに身を沈めた。



 邪魔なものを身から剥がしていく。下着に滲みができるほど欲情していた。




 身体が熱を持つあまり、左内股の白粉彫り(おしろいぼり)の揚羽蝶が色濃く浮き出ていた。宗一の所有の証として刻まれた隠し彫りだった。

 そのまま手を差し入れて、漏れた先走りを塗りこむようにしてペニスを扱く。あの男はどんな風にオナニーするんだろうか、と考えたら感度が増した。



 馬鹿馬鹿しくて単純な作業だった。

 それでも、桐生の顔を思い浮かべながらするのは気持ちがよかった。



 花の蜜を吸い終えた蝶が飛び立つようにして精を吐き出すと、いくらか熱は取れたが、逆に身体の最奥が次の刺激を渇望した。



 怜は静かに立ち上がると、冷水を浴びにバスルームへと向かった。













fin.



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