そしてまた、キスをする。
:: 噂のおふたりさん(1/17)
「げ」
昇降口の前で朝から見たくなかった後ろ姿が目に入り、思わず顔をしかめた。
相変わらずのボサボサ頭に眼鏡、だらしない制服の着方。
昨日のあの俺様イケメンオーラはすっかりどこかへ行ってしまっている。
わたしはため息を吐いて、ゆっくりと自分の下駄箱へと向かった。
「…おはよ」
無視をして通りすぎるのも気まずいと思い、とりあえず挨拶をした。
するとボサボサ頭の彼、藤枝は、前が見えているのかいないのかわからない目をこっちに向けた。
「2メートル」
「は?」
ぼそりと呟かれた、意味不明な数字と単位。
眉をしかめると、藤枝はとんでもないことを口にした。
「よっぽどのことがない限り、俺から半径2メートル以内には近付くな」
「は…はあ!?」
近付くなって…彼女になれって、手助けしてくれって、言ったのは誰だと思ってんの!?
お互いに2メートル距離を取りながらも一緒にいる恋人同士なんている!?
「あんた…!」
「朝からあんまり騒ぐなよ。ウザイから」
「なっ…」
「ああ、それと」
上履きを履いた彼は、くるりと背を向けて。
「…お前、覚悟はできてるか?」
「覚悟?……何のよ」
昨日に引き続き、意味がわからないことばっかり言いやがる…
イライラしつつ聞き返せば、藤枝は顔だけを少しだけ後ろに向けた。
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