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疑惑(1/9)




「にーちゃん、ご飯だって」

部屋にいると弟の美琴が部屋に来た。
風呂上がりなのか、タオルを首にかけ、時折、頭を拭いている。

「おー」
「大丈夫?顔色悪いけど」

あまり喜怒哀楽を表情に出さない美琴の、心配そうな声に苦笑いを浮かべて、腰をあげる。

「大丈夫」

俺が立ち上がり、そう言ったことに安堵したのかほんの少し表情が緩んだ。
家族だからこそ気づける些細なところ。
歩み寄って頭を撫でれば、美琴は小さく頷いた。

美琴は小さい時に良樹と公園で遊んでいる時はよく後ろから付いてきた。
転んだりしたら泣いて、ゲームに買ったら笑って、俺たちに置いてかれたら怒って、昔は元気な子供らしい子だった。
あんなに小さかった美琴が今は大きくなり、いつからか、本当にいつからか喜怒哀楽をあまり表に出さなくなった。

(…あれ、いつからだ?)

美琴が表情を、出さなくなったのは。
幼稚園の時?
いや、入りたての幼稚園に母さんと離れたくないって駄々を捏ねてた。
小学生に入ってから?
いや、その時は毎日友達と遊んで泥だらけになって帰ってきて無邪気に笑っていた。
小学校在学の時も、地区で学校が離れちゃう友達と泣きながら話していた。
中学生に入ってから?
いや、制服を褒められて、照れ臭そうに笑っていた。
野球の試合でレギュラーになったって喜んでた。
好きな子に振られたって落ち込んでいた。

あ、そうだ、中学2年の時から。
その時から、美琴は変わった。

3年前ぐらいのあの時から。

それと同時に斎藤さんの言葉を思い出した。
なんでだ?
3年前の美琴と、何故か、斎藤さんの話を思い出した。
前を歩く尊を見た。
尊は無言で階段を降りている。

「…なあ、ミコト」
「ん?」

階段を降りたまま、美琴は返事をする。

「常田、さん…って知ってる?」

俺の、この前の頭痛の原因の名前を、口に出した。
前と違い、頭痛はないが、美琴が足を止めて、勢いよくこちらを振り向いた。

「なんで?」

その顔は、今までに見たことのない、美琴の顔だった。

まるで怒りに満ちたそんな表情だった。





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