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悪夢の始まり(1/7)




久しぶりのデートの日だった。
お互いになかなか時間を取れず、ようやく取れたのがその日。
いつもの待ち合わせ場所に15分前に行ったら、彼女はそこにいた。
ベンチに座って俯いている姿だったが久々に会えてただただ嬉しくなって、急いで彼女の元に駆けよれば、彼女は気づいたのか顔を上げた。
長い黒髪が静かに揺れた。
側に寄れば、彼女はベンチから腰を上げて、俺を見上げた。

「ごめん、待った?」
「ううん…待ってないよ」
「そっか…ってか、どうかした?顔色悪いけど…」
「え?あ…ううん」
「本当?」
「本当だってば」

そう答えた彼女に「無理すんなよ?」と小さい頭を撫でれば、彼女はまた俯いて、そのまま黙り込んでしまった。
心配になって顔を覗き込んだ。そして、驚いてしまった。

泣いていたから。

「どうした?」
「っごめんね、まこくん」
「え?」

「、別れ、よ…うっ」

唐突の言葉に、言葉が何も出なかった。

「私ね、もう、今、いろいろなことがあって…っ」
「な、にが…なにが無理なんだよ…っ?」

「ごめんなさい…っ!」

そう言って、背を向け、走り出した彼女。
追いかけようと思ったが、彼女の顔が、本気で、多分、嫌だと言っても戻れないと分かったからか、体が彼女のほうに走り出してはくれなかった。

「…いきなり、すぎんだろ…っ」

たった今、付き合っていた彼女に呆気なく別れを告げられた。
訳が分からず、ベンチに座り込む。
俺の心とは裏腹に近くの公園からはただ、子供たちの楽しそうな声が聞こえてきた。








***

――――…8月5日

夏休み。
前期、単位が足らなくて補講に来ていた俺は校舎の裏にある中庭のベンチに座り、5日前の出来事を思い出しながら、手元にある携帯にある今までの彼女との写真を見返していた。
二人で撮った写真や幸せそうにパンケーキを頬張る彼女、誕生日にあげたプレゼントを嬉しそうに見つめる彼女、DVDを見ながら目に一杯涙を浮かべる彼女、他にもいろいろな彼女の姿が携帯の画面できらきらしていて、今はもうこんな笑顔を隣でみることはできないんだと悲しくなった。

「まーこちゃん」

ふと、頭上からかかった声に顔を上げた。

「…良樹」
「うい」

コンビニの珈琲を両手に立つ、幼馴染がそこにいた。
城田 良樹(シロタ ヨシキ)。
幼稚園の時からの幼馴染はチョコレート色のふわふわの髪を揺らし、整った顔で笑っては空いていた隣に腰を下ろした。
大学を出てすぐのところにあるコンビニから帰ってきた良樹は片方のコーヒーをこちらに差し出してきて、それを受け取る。

「さんきゅ」
「ついでだよ、ついで」

受け取ったコーヒーを啜れば、口の中にブラック特有の苦みが広がる。

「ってか、元弥と優希は?」
「休みじゃん?」
「頭いいやつはいいよなー」

そうため息をはき、ベンチの背凭れにに寄り掛かる。
元弥(モトヤ)と優希(ユウキ)は良樹と同じく、昔からの幼馴染だ。
お昼時はここで4人で食べるのが日課。
いないときは基本、学校にいない時ぐらい。

「ぼーっとしてるね、最近」
「…あー…そうか?」
「うん、カノジョと別れてから多い」

悪びれた様子のない良樹は俺が持っていた携帯を見ては、小さくため息を吐いた。

「まこちゃんに理由も言わないで一方的に別れようって言ってきた女でしょ?そんな女、さっさと忘れなよ」
「…そうだけど……つーか、大学も一緒だしよぉ、見かける度なんか、こう…」
「ま、俺はあの子好きじゃなかったけどね」

昔からの幼馴染ということもあってか、良樹は俺に対してだけ何処かズバズバと言う所があった。
他にもあと二人、元弥と優希という幼馴染がいるがそいつらにはこういう風ではないのに。
まあ、毒舌良樹のおかげで今まで、困ったときや悩みなどは助かってきたし、気を許されてるんだと思うと気にはならなかった。

「…お前、よく大学で友達出来たよな…」
「ま、この顔があれば誰でも寄ってくるかんね。それに素でつるんでるのはお前らだけだし、寄ってくる奴らなんて信用してないよ。広く浅くでいいんだよねぇ、俺は」


容姿端麗。その言葉が似あう男を俺はこの男以外に見たことがなかった。
そのせいかもしれない。ルックスをみて寄ってくる女や、おこぼれに預かろうと寄ってくる男。
幼馴染組は昔からの付き合いだったから良樹の容姿なんて「まあ、顔はいいよな。性格は悪いけど」ぐらいにしか思っていなかったけども。







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