ヤンデレとサイコパス
6[嫉妬](1/13)





 彼は薄暗い部屋で、頭を抱えるように机に肘をついて俯いていた。


 電気スタンドの明かりが照らし出すのは、一枚の写真だった。


 歯を覗かせて笑う彼と、可憐な微笑みを浮かべた美しい少女が写っている。


 彼女と付き合い始めた今年の三月に、二人で水族館に行ったときに撮った写真だった。



「莉緒……」



 写真の少女を指先でなぞりながら、吐息混じりの切ない声で彼女の名前を呟く。


 愛しくてたまらない。


 出来ることなら、いつも一緒にいたかった。


 学校で話し、昼休みを共にして、休日の都合が合えば二人でどこかへ出かける。



 ……そんなんじゃ全然足りない。



 もっと、もっと一緒にいたい。


 彼女の白い手を握りしめ、綺麗な髪に指を絡め、柔らかな唇にキスをしていたい。


 いつも、愛する彼女に触れていたかった。


 しかし、彼が一番欲しくてたまらないのは、彼女の心だ。


 彼女の愛……。


 愛は平等でなければならない。


 どちらか一方が重すぎても、軽すぎても成り立たない。


 だが、二等分にすればいいという単純なものでもない。


 愛は──人の心は、移ろいやすいものだから……。


 ふいに、彼の脳裏に一人の少女の姿が浮かび上がる。


 胸の奥が疼きそうになる前に、無理やり記憶から閉め出した。



 過ちは繰り返さない……もう二度と。



 彼はぎゅっと拳を握りしめ、決心を固めた。


 過去は過去。


 今の俺には、莉緒がいる。


 自分の命よりも大切な、愛する彼女が……。



 彼女を傷つける奴や、俺たちの仲を裂こうとする奴は許さない。


 たとえば、雑貨屋オーナーの岸谷。


 あの不潔な髭面野郎は罪深いことに、莉緒を犯そうとした。


 奴は命が助かったことに感謝すべきだ。


 それから、あの忌々しいガリ勉野郎……。


 秋吉和也の存在に怒りを覚えて頭がクラクラする。


 スパイ役を頼んだ翔太の言葉を思い出す。



「凪、用心しろ。あの秋吉って奴は、お前の女を狙う気満々だぜ。横取りされる前に、あの坊っちゃんに釘を刺しておいた方がいいんじゃねぇか?」



 そんな忠告があった二日後、彼女が秋吉と駅前のカフェに入っていく様を目の当たりにした彼は、嫉妬の炎を一瞬にして燃え上がらせた。





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