紅龍
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「随分…化けたな」
「んん…このファンデーション重い」
みんなで海に行ってから数日後。以前兄貴から言われていたパーティーに出席する為にサロンへ連れてこられていた。
あまり使う事がないメーカーだからかファンデーションを塗るだけでも顔に圧迫感を感じる。
あの日海で聞いた話はとりあえずは誰にもせずそのまま普通に過ごしている。泳がせておいていいだろうと思ったから。どうせ今日あっちも出席しているのであれば、それが抗争の引き金になるし。
「結局母さんから届いた荷物ってやっぱりそれだったんだ?」
「今回は珍しく色がファンシーじゃなかった」
「確かに…母さんにしては珍しいチョイスだよな」
母さんから送られてきたパーティーで着る用の服はベージュのパンツドレス。
珍しく普通のやつで荷物を開けた瞬間2度見したのは記憶に新しい。
「さて、準備もできたし行くか」
「兄貴は挨拶周りあるでしょ。あたし会場に入ったらどっかで時間潰しとくから」
「お前も来るんだよ!」
「何の関係者がいるか分かんないから顔バレしたくないんだけど…」
「キラに調べてもらったけど阿白以外はあっちの業界のやつはいねェって」
ついて歩くだけならいいけどあたしにはそういった会話が出来ないことを理解してるんだろうか。してなさそう。
何か振られても愛想笑いがギリギリなんだけど。
「心なしか肌艶いつもより良いな」
「昨日母さんから要請があったのかわからないけど…知らないお姉さん達が家まで来てエステしに来た」
「うわ、贅沢」
「そのおかげか体の調子もいいよ」
磨き甲斐がありますねー!凄い張り切っていたお姉さん達を思い出す。磨き甲斐がなんなのかは分からずじまいだったけど。
3人がかりで色々やってもらって凄い贅沢気分だったのは確かだった。
「こりゃ会場の奴等がほっとかないよなァ…」
「ん?」
「大丈夫大丈夫!俺がいるから!」
「全然大丈夫な気がしない」
何かを意気込んでいる兄貴を横目に窓の外を見れば大きなホテルが見えてくる。あれが今日の会場となってる場所らしい。泊まるとだいぶ料金がかかりそう。
どこでパーティーをするのかもきっとその企業のステータスになるのかもしれない。
「確認しておくけど今日は挨拶回りがメインだからな?何か見つけても得意な尾行とかするなよ?」
「さすがにヒールで足音も立てずに尾行は出来ないよ」
「一応壬黎の事は親戚って事になってるから」
「ふうん…なんか言われたら適当に話し合わせるよ」
その部分はちゃんと考えてくれていたらしい。妹ですなんて紹介されたらどうしようかと思ってた。裏稼業の関係者はいないって言ってたけどもしかしたら繋がりはあるかもしれないし。
着いたぞと言われ車から降りようとすれば物凄い勢いで引き止められた。そういえばこういう場所はエスコートとか必要なんだっけ。よく分からないけど。
「よし、行くか」
「…ボロ出さないように頑張らないと」
「お前気抜くとすぐ口調崩れるから気を付けろよ」
「多分大丈夫…なんか話しかけられない限り愛想笑いで乗り切るから」
そう答えれば3回くらい頷かれた。口が悪い事は自分でも自覚してるし。
あんな身の回りにガラの悪い大人ばかりの環境で育てば嫌でもこうなるからしょうがないと思う。
「招待状を拝見させていただきます…高瀬様ですね。ありがとうございます」
「お招きいただきありがとうございます」
「とんでもございません。是非楽しまれて下さい」
受付の人にさわやかな笑顔を向け少し言葉を交わす兄貴を見て思わず少し目を見開く。いつも人懐っこそうな笑顔な兄貴がこんな胡散臭い笑顔をすると思わなかった。まるで別人。
写真を撮りたいのを我慢して兄貴の横を歩きながら会場に入れば、既に沢山の人がそこかしこで談笑している。
これからこれに参加すると考えただけでため息が出そう。否、もう既についてた。
「高瀬さん、お久しぶりです」
「ご無沙汰してます。お元気でしたか?」
「はは、この通りですよ。随分お綺麗なお連れ様ですね」
「ああ、僕の親戚なんです」
ほら、挨拶。促され見たこともないおじさんにとりあえず挨拶しておく。
…これを何回も繰り返すの?気が遠くなるような仕事かもしれない。こんなのいつも兄貴と母さんはやってるなんて信じられない。
そう考えると兄貴が母さんの会社を継ぐって言ってくれてよかったかも。あたしには無理。
「ではまた」
「ええ、それでは」
「おや、高瀬さん!お久しぶりですね!」
1人と会話が終わったかと思えば次から次へと兄貴に声をかけてくる。そんなに母さんの会社って凄いところなのかな。
愛想笑いは忘れずに会場をそろりと見渡してみればバチリと合う目。やっぱり来てた。向こうは凄い驚いてるけど。
話が終わったタイミングで兄貴に少し外すと耳打ちすれば小さく頷かれた。どうやら兄貴も気付いたらしい。複雑な顔をしている。
「お前、何で…」
「来ると思ったよ。何ではあたしの台詞だけど」
「世話になってる親戚に出席しろって言われて来てんだよ」
「ふうん…阿白に?」
兄貴から離れ飲み物をもらってテラスに出れば追いかけてきたであろう白夜が音もなく隣に居た。
会場には残念ながら阿白の娘は来ていなかったから、白夜が阿白の何なのかまではわからなかったけどもう十分。
するりと腰に回された手を叩き落とせばぎゅっと眉間に皺を寄せられた。何、その顔。
「…白夜、君クビね。明日から紅龍来なくていいよ」
「…ハ?」
「いやァ、参ったよ。まさか最近ちょっかい出してくる紅雀に情報渡してんの白夜だったなんて思わなかった」
「…いつ、気付いた?」
「咲夜達が紅龍の溜まり場に来た時。その前にもあたし学校でチームに入ってるの報告しろって言ったよね。それも確信材料だよ」
白夜からの報告には紅雀なんてチームは無かった。実際は居たはずなのに。
白夜の情報収集の腕を知っているからこそ、意図的に報告しなかったんだろうと咲夜達が現れた時に思ってしまった。
極め付けは紅雀が姿を現した時期と同じくらいから、私用で姿を見ない日が増えた。
「だいぶ前から、か」
「確信を持たせたのはあの海に行った日。君らは焦りすぎた。宿泊先の近くで話しすぎ。誰が聞いてるからわからないんだから慎重にならないと」
「…そうか」
「…ねェ、いつから?」
「…ずっとだ。紅龍に入る前からな」
あの一緒にいた時間ずっとあたし達は監視をされていたらしい。 思わず顔を歪めていれば、横目に見えた白夜の顔に言葉を失った。
何で…何でそんな酷い顔してんの?ぎゅっと眉間に皺を寄せて苦しそうなそんな顔。君がしていい顔じゃない。
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