紅龍 12 1 / 7






「意外と綺麗だね、ここの海」



「綺麗なところを私有地にしたらしいですよ」



「汚いと入りたくないよね、そりゃ」





紅龍の溜まり場で白夜と聖夜と共に飲んだくれた日から数日後。聖夜が楽しみにしていた海までやってきた。



ちなみに空き缶の山は案の定メンバーに凄い突っ込まれた。何で呼んでくれなかったんだって。





「とりあえず部屋3部屋予約したんで荷物置きに行きましょうか」



「3部屋も予約したの?」



「俺らは3人ずつ、残り1部屋は壬黎用ですよ」



「別にいいのに」



「また怒られたいですか?」





反射的に口を噤んで首を数回横に振る。



走りの時は物凄かった。しかも夢馬だけじゃなく後から和叉にも凄い怒られたし今日はその2人両方いる。



少し顔を引きつらせていれば海音にポンと無言で肩を叩かれた。どんまいって事?まだ何も怒らせてないよ。





「壬黎さーん、早く行きましょう!」



「生き生きしてる」



「本当にな。そういえば白夜はどこ行った?」



「あそこに居ますよ」





夢馬が指差した先には女の子と何かを話している白夜の姿。なんだなんだと物珍しそうに和叉と詩廉はガン見していた。



女の子の方は可愛らしいオフショルダータイプの白いビキニを着ている。あれはモテる。





「…あ。あの子この間白夜がデートしてた子だ」



「走りの顔合わせの時言ってたやつか」



「そう。結構いい具合に進展してそう」



「放っておくのはいいけどその間はしゃいでる聖夜に振り回されんのお前だぞ」





和叉に指摘され思わず顔を手で覆った。そうだった。



また海音に無言で肩をポンと叩かれた。まァ、いいんだけどね。





「あれ、白夜さんはどうしたんすか?」



「デートしてた子も来てたみたいであっちで話してた」



「今日は野次馬しなくていいんすか?」



「だって今日隠れる場所ないじゃん」



「そういう問題かよ」





前回は人がまだ沢山いたからいいものの今回は学校の私有地の海。いくら隠密行動が大得意なあたしと聖夜が気配を消したとしても隠れる場所がなきゃ無理な話。



ねェ?聖夜に同意を求めれば確かにと頷かれる。





「お前ら普段からそんなことばかりしてんのかよ」



「いつもじゃないけどね。やる時はやるのがあたしらの自己PRだから」



「強ち間違ってはないですね。壬黎はギリギリまで引き付けて一気に仕掛ける事が多いですし」



「あれ、いつから戦術の話になったの?」





ゆったりと雑談をしていれば部活の合宿所に使われている建物に着く。夏の間にしか使われていないわりに綺麗なところを見ると管理人さんがいるらしい。



現に受付らしきところに優しそうなおじさんがいて夢馬が何か話しかけ鍵を3つもらっていた。





「借りた部屋は横並びで3部屋です。部屋割りどうします?」



「ノエルちゃんは気遣うと思うから白夜と同室にしてあげて」



「じゃあそこに俺も入りましょう。和叉、詩廉、海音が同室で」



「めっちゃ白夜さん警戒されてるじゃないっすか」





無理ないでしょうとため息を吐きながら先陣切って歩いていく夢馬の後を追う。



あてがわれた部屋は2階の端から3部屋分らしい。鍵を1つ放り投げ渡された。どこがいいかなんて聞かれないあたり既に決めてたでしょ。



一番角部屋のその鍵。それぞれ室内に消えていくのを見れば隣の部屋に夢馬達、そのまた隣に詩廉達。せっかく泊まりに来たのに1人部屋なんてちょっとだけ寂しい。





「壬黎さん、準備出来たら海行きましょう」



「わかったからここで浮き輪を膨らまそうとしないで。海楽しみにしすぎだよ」



「海というより日頃の仕事からの開放感が嬉しいっす」



「…それは、ごめんね?」





とりあえず後でね。聖夜に告げあてがわれた部屋のドアを開ければ大きめのダブルベッドが1つある1人部屋。窓の外からはこれから行くであろう海が見える。



何かサーフィンしてるのいるけど、あれが何組かいるうちの他の学生なのかな。





「日焼け止めは…と」





荷物の中からウォータープルーフの強めの日焼け止めを引っ張り出してこれでもかと塗りたくる。母さんがエステティシャンだからかこういった対策は小さい頃から煩く言われてるし。



紫外線は後々のシミになるし肌の大敵!凄い勢いで言っていたのを思い出して少し震えた。親父とはまた違った意味で怖い。





「壬黎さん準備できまし…あァ、日焼け止め」



「今水着で何やってんだって思ったでしょ」



「少し思いました」



「ちょうど良かった。ノエルちゃん背中塗って」





手の届くところは全て塗り終わり背中をどうしようか考えていればナイスタイミングで聖夜が現れる。水着だからか珍しく短パンスタイル。



ポイっと日焼け止めを聖夜に投げ背中を向ければゴトっと物を落とす音。掴み損ねたのかな。





「…それ…背中のタトゥー…って言うか、」



「…あ」



「なんすか!あっ、って!」





そういえばこっちの存在をすっかり忘れていた。二の腕のこれのために夢馬がこの海を選んでくれていた筈なのに。海に行くという時点で気付いておけばよかった。



思わずぺちん!音が鳴る勢いで顔を手で覆った。これはやってしまった。





「とりあえず塗って」



「これ…白夜さん知ってるんすか?こんなのまるで、」



「ただの兄貴の知り合いの練習台。二の腕のもその人にやってもらったし」



「…そうなんすか?なら、いいっすけど」





そんなの嘘に決まってる。背中のそれは去年天翔派に正式加入した時に入れた物で春日の背中にもこれの対になるような白い龍が入っている。あの日決めた。あたしらでやるのだと。




聖夜のこんなのまるで、の後に続く言葉は分かり切っていた。まるでヤクザじゃないかとでも言いたかったんだと思う。背中一面に和彫なんてそうそう一般人が入れる物ではないし。





「はい、出来ましたよ」



「ありがと。他のみんなは?」



「先に行って良さそうな場所探しておくらしいっす」



「日陰がいいな。白夜戻ってきた?」



「それが戻ってきたは戻ってきたんすけど…あの女の子も一緒で着替えて2人でどっか行きました」



「はは、仲良しじゃん。付き合えばいいのに」



「…それ、本人の目の前で言わないでくださいね」





水着の上にパーカーを羽織りながらそう言えば凄いじとりとした目を聖夜に向けられた。さすがにそこまでズケズケと踏み込むつもりもないし言わないけど。



財布とスマホ、日焼け止めと部屋の鍵をビニールタイプの小さな鞄に入れて部屋を出れば廊下の窓の外からちょうど白夜と女の子の姿が見えた。





「青春だね」



「何言ってんすか」



「いや、別に?ほら行こう。海楽しみなんでしょ」



「否定はしないっす」





しれっとしてるけどその既に膨らまされた浮き輪を片手に持ってる時点で隠しきれてない。



少し笑いながら建物の外に出ればそれはもうじりじりと日差しが照り付けている。うん、夏って感じ。



意外と利用してる学生は多いみたいで夢馬の何組か発言は嘘なんじゃないかと錯覚する。多分1組あたりの人数が多い。








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