紅龍
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「壬黎さん急いでくださいよ!」
「いやァ、やっちゃったね」
「やっちゃったねェ、じゃないっすよ!」
白夜の家に泊まってから丁度1週間後の今日、計画していた選抜メンバーでの走りが行われる。
集合時間19時。その時間にあたし達は連合の溜まり場への道をバイクで走っていた。つまりは例の如く遅刻である。
「直前まで変に壬黎さんと白夜さんがいちゃついてるからだよー」
「いちゃついてるって言わないで。泊まりに行ってから距離近くて困ってんだから」
「壬黎さんってどこまでも鈍いよね」
「勘は鋭い方だと思うんだけど」
「そういう意味じゃないよ!」
今日も後ろには朝日が乗っている。前回と違うのは夕日が白夜の後ろに乗ってることだった。
遅刻の焦りから凄いおっかない顔をしている聖夜を避けた結果だと思う。確かにあの後ろには乗りたくない。怖いし。
「焦ったところでいい事ねェぞ。事故るかもしれねェしな」
「そうそう」
「あんたらが焦らなすぎなんですよ!」
「ん?焦ってるよ。今ポケットでめっちゃスマホ震えてて」
確実に時間になっても来ないあたし達の行方を確認する為の夢馬からの電話だと思う。着いたら絶対怒られる。
満面の笑みでずっとチクチクと怒ってくる夢馬の怒り方ほど厄介なものはない。
「…何度、言えば、わかるんですか!」
「ごめんね?」
連合の溜まり場へ着けば何台ものバイクが停まっていた。やっぱり最後だった。
バイクの音を聞き付けた何人かが顔を出しあーあという顔をするのが見えた瞬間、般若の如く怒った夢馬が室内から飛び出してきたのは数分前の事。
「全くいつも…」
「ごめんって」
「…何もなかったみたいなんでいいですけど」
「白夜との一悶着はあったかな」
そう言えば夢馬はギン!鋭く白夜を睨み付けるが当の本人は明後日の方を向いている。関係ありませんよって顔やめて欲しい。
聖夜もそう思ったのか思い切り白夜の背中をど突いていた。もっとやってやれ。
「お、やっと来たか!もう全員準備出来てるぞ!」
「やる気満々だね」
「まァな!最近補習ばっかだったしな!」
「それは自業自得でしょう」
ははは!笑う有斗にピシャリと言い放つ夢馬はまだ少し虫の居所が悪いらしい。
再度謝り後ろに乗っている朝日の方を向けばその姿は消えていた。どこ行ったんだろう。
「朝日ならもう既に聖夜の後ろに乗ってましたよ」
「初めてだからはしゃがないといいんだけど」
「普段なら何も考えずに楽しめたんでしょうけどね」
「状況が状況だし、仕方ないよ」
その中でも楽しもうと意気込めば気を付けてくださいねと夢馬に珍しく頭をするりと撫でられる。びっくりしすぎて目が点になった。
許可はしてくれたものの心配してくれているのだろう。
「じゃあそろそろ始めよっか」
「何かあれば車まで来てください」
「何もないと思いたいかな」
バイクに跨りながら少し笑えば後ろから続々と選抜のメンバーが走り出す。
走り出さずバイクにもたれ掛かってるあたしを見てギョッとした顔をする白夜とすれ違った。あの顔はあたしがバイクに乗るって事しか覚えてない。
適当に手を振り全体の3分の2ほどのバイクを見送っった後。
「俺らも行くか!」
「うん。頑張ろうね」
「俺からすればいつもやってる事だから頑張る感じしないな!」
「ははは、それもそうか」
もし警察だったり妨害が来た時の囮役となるポジションを任されている玲苑は慣れたように適度にみんなと距離を取り走り始める。
このポジション滅多にやらないからなァ。そもそもバイクにすら乗せてもらえないし。
「お、今年もギャラリー凄えな!」
「あれ殆どが女の子で君ら目当てって知ってる?」
「え!何それ!知らねェ!」
「はは、人気者」
ギャラリーに応えるように全体のスピードが少しゆっくりになった。どうせ先頭きって走ってる未蘭達がスピードを落としたに違いない。
ヘルメットの下で苦笑いを浮かべていれば前の集団からさらにスピードを落として後ろに下がって来るバイクが1台見えた。
「ん…?誰だ?俺んとこのじゃねェな」
「気のせいじゃなきゃあれは…白夜のバイク」
「まさかお前どこ走ってるかずっと探してたんじゃねェの?」
「はは、そんなまさか」
玲苑はもし紅雀が何かしてきたとしても言いくるめられると思ったからいいものの、白夜が来てしまったら絶対バレる。
言い訳なんて絶対させてくれなさそう。
「お前何で最後尾にいんだ。馬鹿かブス」
「この間の顔合わせの時話聞いてなかったでしょ」
「だから言ったじゃん!壬黎さんは最後尾で玲苑さんと組むってこの間言ってたって!」
「普段の行動見ててお前が言う事の信憑性が全くねェんだよ馬鹿」
一体何度馬鹿馬鹿言うんだろう。話聞いてなかったくせに。思わずため息が出たけどきっと誰にも聞こえてない。
白夜の背中をぽかすかと叩く夕日を見てゲラゲラと笑っている玲苑を見て更にため息をつきたくなった。
「とりあえずあたしはここでなんかあったらやる事あるから戻って」
「ハ?ふざけんな。お前になんかあったらどうすんだ」
「大丈夫だし、何より夕日に今後の勉強をさせる事お願いしたはずなんだけど」
「チッ!」
「ほら、戻って」
物凄い舌打ちを残し渋々と集団に戻っていく白夜。あの日以降どこに行くにしても着いてきて必ず視界に入る位置にいる白夜に思わず顔を歪めた。
確実に適度な距離感じゃなくなってきてる。
「壬黎、もうギャラリーもいない道に入るから気をつけろよ!」
「…ん?あァ、了解」
「俺ちょっと夢馬のとこ行ってこの後の動き確認してくるわ!」
そう言い残しスピードを上げ集団の真ん中あたりを走っている車に向かっていく玲苑。その話も顔合わせの時されたはずなんだけどどうやら覚えきれなかったらしい。
すぐ戻ってくるだろうと思ったその瞬間だった。
「…やっぱり」
バックミラーに2台ほどのバイクが映り込んできたのは。
何もなければいいなんてそう上手くいかないものである。
「こんな日までちょっかいかけてくるとか暇人なの?」
「すいません。これもリーダーからの指示なんで」
「すいませんなんて思ってもないよね君」
道を塞ぐようにバイクを停めれば向こうも停まり心のこもってない謝罪をされた。思ってないなら謝らないで欲しい。
ふうとヘルメットをはずし出てきた顔はやはり紅雀の自販機紳士と赤髪。性格的に面倒臭そうなの送り込んでこられて頭が少し痛くなった。
「今日は何の用なの」
「まさか龍が最後尾にいるとは思いませんでした」
「君達がくると思ったから」
「本当嫌いです」
ちょっと不機嫌そうにそう言う自販機紳士もとい咲夜。そしてそれを見た赤髪はびっくりした顔を咲夜に向けている。何かびっくりする要素この会話にあったっけ?
首を傾げていると咲夜にはふいっと顔を背けられ、そんな咲夜に赤髪は更に驚いた顔を向ける。
一体何見せられてるんだろう。遊んでんの?
「遊んでるの見せに来たの?」
「んな訳あるか!」
「そうだよね?もしそうだって言われたら君達置いて戻ってた」
「帰ってもらってもいいですよ。今日は少しちょっかいかけてこいって言われただけですし」
「君達の少しって少しじゃないんだよ。自覚してる?」
堂々と紅龍に全員で顔見せに来たり、明け方にバイクで追いかけてみたり、赤髪に至っては恐らく独断でアポ無しに紅龍に訪問してきたし。
存在をアピールしてくる割には何もしないで帰っていくからたまに何しに来てるのか分からなくなってるんだけど、もしかしてそれも作戦だったりするのだろうか。
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