パレード
[Day1](1/10)
↑Xe/non様に作成して頂いた画像です。超かっこいいです!
目がさめると、琥珀色の光の中にいた。
(ん!?)
両手を動かそうとするが、何かで固定され、ビクともしない。
瞼はほとんど開かず、全身が床に貼りつき、口も満足に開かなかった。
これが金縛りというやつだろうか。
(ぐっ……誰か!)
軽いパニック状態になり叫ぶと、パキパキと薄い膜が剥がれるような不思議な音がする。
全身に力を込めると、軋みを上げる琥珀色の世界。
これなら自力でなんとかなるかもしれない。
右腕に渾身の力を込め、振り上げる。
ミシ……ビシ……バキ!!
右腕が拘束を逃れ、空を掻く感覚。
(やった、突き抜けた!)
そこを起点に、体の自由を取り戻そうともがく。
「……!」
「……」
微かに、人の話す声が耳に届いた。
近くに誰かいるのだろうか。
推測を裏付けるように、突き抜けた右腕を何者かが掴み、力強く引き上げる。
その助けもあり、やっと上半身を起こすことに成功した。
ガラガラと音をたてて崩れる琥珀色の“殻”。
俺の全身はそれに覆われていたらしい。
蛹を破る成虫のように、じりじりと床に這いだす。
「ガッ……ゲホッ」
口の中にまで詰まっていた殻を吐きだし、頭を振る。
ひどく喉が渇いていた。
脚に鈍い振動を感じ、ぼんやりと滲む視線を向ける。
俺の右腕を引き上げた人物が、乱雑に脚を覆う殻を壊し、さらに身体を引きずりだそうと試みているようだ。
「……大丈夫?」
それとは別の方向から、メロディの声が微かに届く。
しかし非常に小さな声だ。
耳に手を当てると、何かがぎっしりと詰まっている。
これでは聞こえるものも聞こえない。
「水、水をくれ」
きちんと喋れている気がしないが、どうやら伝わったらしく、なみなみと水の注がれたコップを手渡された。
奪うように受け取り、一息に飲み干す。
「もっとくれ……」
リクエストに答えて同じものが次々に運ばれる。
端から順に飲み下し、最後の一杯を頭から被った。
顔をガシガシと拭うと、残っていた殻が取り除かれ、やっと視界が開ける。
耳に指を突っ込み、ボソボソとした塊を排除した。
殻を剥いでしまえば、体調に変化はない。
むしろ実に爽快な目覚めである。
「うぉ……」
改めて自分の身体を見ると、殻はあらかた壊されているものの、未だに両足が寝台に貼り着き、異様な光景になっていた。
「なんだこれ!気持ち悪いな!」
俺の叫びに、嫌味ったらしい声が答える。
「いや、それこっちの台詞。キモいでミーちゃん」
目を向けると、自身の手にまとわりつく琥珀色の欠片を、気味悪そうに払うハロルドの姿。
どうやら俺を引きずりだしたのはこいつらしい。
朝から見たくない顔に遭遇してしまった。
「俺が寝てる間になんかしやがったのか」
不信感を剥きだしに問う。
「いや、なんも?ただミーちゃんが自分の殻に籠って出てこないって彼女が言うから、様子見に来ただけ」
不躾に指差した先に、コップを手に佇むメロディの姿。
「起こしに行ったら、部屋中ビッシリ琥珀塗れなんだもん!ミュージくんなんて完全に覆われちゃってるし、ここ最近で一番びっくりしたよ!」
「そりゃあたまげるな」
他人事のように返事をして、のたくたとシャワールームに向かう。
とりあえず、一刻も早くこのザラつきを落としたい。
ざっとシャワーを浴び、脱いだ服をもう一度身につける。
幸いなことに、軽く払えば衣服についた欠片はあっさり散っていった。
リビングに戻ると、メロディが箒と塵取りを使って、せっせと床の掃除をしている。
ハロルドの姿はなく、テーブルにサンドイッチとスープが用意されていた。
「あ、ミュージくん。早くご飯食べちゃってね。掃除はやっとくから」
「汚してすまない……」
本当なら片付けを手伝うところなのだろうが、食欲に負け朝食に手を伸ばす。
味わう間もなくペロリと平らげ、追加でもう一杯水を飲んだ。
目覚めた瞬間は頑強に思えた琥珀の膜は見る見る強度を失い、メロディが軽くはたいただけで壁から剥がれ落ちる。
「よく見ても気持ち悪いな」
もちろん、16年生きてきて、身体からこんなものが分泌されたことはない。
「そう?なんか固まった飴細工みたいで、ちょっと美味しそうじゃない?」
「頼むから口に入れないでくれよ」
メロディならやりかねない。
監視の意味も込めて、途中から一緒に片付けを進める。
欠片をかき集め、ダストボックスへと運びながら、これから毎朝こんな掃除をしなければならないのか?とゾッとする。
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