花筏 〜はないかだ〜
[6章 あなたの隣](1/3)
「こんな場所しか用意できなくて…本当にすいません…。」
彼はそう言って、悲しそうな顔をする。
「謝らないでください。私の方こそ…ごめんなさい。」
茶屋…。
まさか…ラブホテルみたいな場所だって知らなくて…。
はじめて聞く…隣から漏れ聞こえる甘い声に動揺して…私は思わず布団にくるまってしまった。
私だって…もうすぐ、16歳になるし…。
男の人と女の人が…えーっと…その…そーゆーことをするって…知らないわけじゃない。
私だって…大好きな人ができたら…その…いつかは…そーゆーこと…するのかな…とか…うん…。
だから…。
「気にしないでください。」
「…怒ってないですか?」
彼は捨てられた仔犬の様な顔をして、私の様子を伺う。
「怒るなんて…。とりあえず、仕方なく…ということなので…。」
そうだよ。
むしろ…急に現れて…ちゃんとしたところでお世話になろう…なんて思う方がおかしいよね。
私は申し訳なさそうにしょんぼりしている彼を励ますつもりで、両腕でガッツポーズをしてみる。
「私はもう大丈夫ですから。」
……………。
……えーっと…。
私…何か…間違ったかな。
「…あ…あ…あの…。大丈夫って言うのは…えーっとえーっと…あの…。」
すっかり目が点になっている、彼の視線が痛すぎて…。
私はしどろもどろで、何かを説明しようと頭をフル回転させる。
自分でも…何をどう説明するのか…分かってないんだけどね。
「ふっ…。」
不意に彼が口元を手で押さえて、俯いた。
えーっとえーっと…。
どうしよう…。
ん?
あれ…?
もしかして…。
「あの…もしかして…笑ってますか?」
「ふふ…笑ってなんか…ないですよ?」
いやいや…。
小刻みに肩を震わせながら、そんなこと言われても…。
「くくっ…本当に君は…あっ。」
彼は急に大きな声を出して、ぱちんと手を叩いた。
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