#4『ギャップ』 (1/5)
「蒔田!」
仕事を終えた帰宅時のことだった。
最寄り駅の改札口を出たら、後ろから名前を呼ばれた。
「葉山君…」
振り向くと、葉山君は笑顔で手を振りながら、大きな歩幅で私に近付いてきた。
その日は小雨がパラつく肌寒い夜だった。
春とはいえ、夜はまだ冷える。
「この間は急に訪ねて悪かったな。蒔田」
「ううん…」
葉山君は鼻を赤くして、私の名前を呼ぶと吐き出す息が白くなった。
私達は駅前のカフェに入った。
温かい店内に入っても、葉山君はまだ軽く肩を竦めていた。
一体、あの場所にどのくらい居続けたのだろう…。
「帰り、結構遅いんだな。忙しいのか?」
「うん。それなりに…」
「何やってんの?」
「貿易関係の商社」
「そっか。蒔田、英語得意だったもんな!」
葉山君は曇りのない顔で笑った。
その無防備な笑顔を正面から受け止めてしまい、少しドキッとした。
中学の頃はやんちゃな印象だったツリ目も、今では大人のクールな雰囲気を醸し出してる。
「葉山君は何してるの?フリーライター…?って名刺に書いてあったけど」
「あぁ、フリーで原稿書いて、色んな雑誌社に持ち込んでる。経済から旅、ゴシップまで何でもアリだ」
「葉山君がライターになるだなんて、思いもしなかったよ」
私は率直な感想を述べた。
でも何物にも囚われない芯の強さは、昔から持ち合わせていたのかもしれない。
「ハハハ。俺だって中学の頃はそんなこと思いもしなかったよ。ただ…」
カチャン
ソーサーの上にカップが置かれた。
「蒔田のこと、捜そうと思ってた」
鋭い目が、私をまっすぐに見つめてくる。
「ライターなら全国飛べるし、独自の情報網あるから、自宅と会社往復してる会社員より蒔田のこと見付け出す可能性高くなるだろ」
“ニッ” そんな効果音が付きそうな不敵な顔で口角をつり上げた。
「けど結局はタイムリミットで、吉川に訊いちまったんだけどな」
葉山君の言う“タイムリミット”というのは、結婚の約束をした25歳という年齢のことだろう。
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