珈琲とラスクとそれから
[スターチスと彼女](1/5)
「ねえ、今日はどこに行くの?」
「今日は、そうだなあ。とっておきのあの場所へ連れて行ってやろう」
「とっておきの、あの場所?」
「そうだよ。いつもより少し歩くけど大丈夫かい?」
「もちろん!」
均一で綺麗な白髪と白髭をもつ祖父の手を取り、私ははしゃいで外に出た。この街はとても暖かい。人も、空も、植物も、皆暖かく微笑んでいる。煉瓦で敷き詰められた地面は、私の足を丁寧に支えてくれる。
街を出ると、自然に囲まれた大きな一本道がある。私の祖父は大きな図体をしているが、そんな祖父が四人ほど横並びになって通れるくらいの道幅がある。
私は、祖父の大きくて硬い手をしっかりと握りながら歩いた。歩くたび靴に触れる雑草や花が、なんだかこそばゆくて口元が緩む。祖父の優しい声と、ぬくもり溢れる手のひらが心地よい。
私は愛されている。そう思った。
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