青を抱いて頂戴
[キラリティーと青](2/40)
ほんとうは言いなさんなっておばあちゃんに
釘刺されたんだけどね、
黙っとけって言われてたんだけどね、と
やけに長い前置きを経た割には
母の言葉は短く、
さっきまで煌々と温もりを放っていた食卓に
冷たくなってぽたりと落ちた。
「有希がちょっと、ここをやっちゃったって」
突然出てきた従姉妹のなまえに
キョトンとしたわたしと父を見ながら
ここ、と言って母が示したのは
体の真ん中、ど真ん中。
「…心臓?」
有希のものではない、わたしの心臓が
キシリといやな感じに音を立てる。
ううん、と母が首を横に振ったことに
安堵したのも一瞬のことで
「そうじゃなくて、」 と
母が箸を置いて ポツリと言った。
「ちょっと心を病んじゃったって」
なんてことない 冬のはじまりが近いその日
なにかが変わる 音がした。
それはそれは 静かでちいさなはじまりで
そっと息をした 哀しみの音。
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