wonder wonder

のぞみかなえたまえ 1/1 


 「食べるものもなく住む家もなく雨に濡れている、死にかけの人間がいたらお兄ちゃんはどうする?」

妹がそんなことを言い出すので僕は飲んでいたチャイを吹き出しました。小学生の健全な女児が死にかけとか言うんじゃありません。で、一体何の話なの。

「あのね。こないだの雨の日、ツグミちゃんが公園で変な人に会ったって言うの。『食べるものか住む場所、どちらかくれたらわがままきいてあげる』って言われたんだってー」

ハハァそれはあれだよ。
ただの不審者がかよわい女児と話したいがためにそんなことを言っているんじゃないの。

「それでツグミちゃん、持ってたパンをその人にあげちゃったの。それで『3DSが欲しい』って言ったら、次の日ブランコの上に3DSがあったんだって」

…ゴクリ。

「あ、今お兄ちゃん自分も何か叶えてもらおうと思ったでしょ」

思ってない思ってない。
贅沢で豪勢なものをあげたら、もしかしたら超有名企業の内定とかもらえるんじゃないかなー、とか思ってないよ断じて。

「思ってたくせに」

うん。
で、パンでそんな感じだと住む場所あげたらどうなるんだろうね。

「そうそう。それが気になって、ツグミちゃん、また公園に行ったの」

その人はいた?

「いた。ツグミちゃん、その人に『おうちにきていいよ』って言っちゃったんだ。その代わり『犬が欲しい』って頼んだらね」

次の日、公園に犬がいたわけか。
なあんだ、いい人じゃあないか。

「ううん。その後急にツグミちゃんのパパが倒れて、犬どころじゃなくなっちゃったんだって。その人を家まで連れていこうと思って公園を出たらしいんだけど、振り返っても誰もいなかったんだって」

妹の話を聞くにつれだんだん分かってきたのだけれども、多分ツグミちゃんはこのあと犬を飼うと思うよ。そして残念だけど、おそらくお父さんは助からない気がする。

「どうして?」

まんまるな目で聞くこの幼い妹に、あまりすべき話じゃないかも知れないけれどもね。


その人多分、この世の人じゃないよ。



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