wonder wonder

夢 1/1 


 「きみ、違う世界を見てみないかい」

なんてキラキラした目で彼に言われ、頷いて同調したのが三日前。呼ばれて言ってみれば白い部屋。あれえ、なんにもないじゃないか。

「まあそこに寝てごらんよ」

促されて見ると、そこに四、五人の男女が寝ているのです。齢は僕と同じくらいかしら。しかし見たことのない顔ばかり。

「彼らは僕の趣味仲間」

彼は言い、やたら僕に同じように寝ろと促すのです。いや、ちょっと。ちょっと待ってよ。いやいやいや。まさかこれが君の言う『違う世界』なの。ただの白い部屋に雑魚寝することがかい。

と、僕が言うと彼は笑って頷く。

「この人たちはね、今夢を見ているんだよ」

夢?

「うん。それもとびきり明晰なね」

僕が怪訝な顔をしていると彼は滔々と話し出した。三ヶ月前からこの部屋で、彼とこの人たちはまったく同じ内容の夢を同じ時間に見ることができるようになったらしい。その夢がまたとてつもなくリアリティのあるもので、感覚すべては現実のそれと変わらないとか。

「むしろ現実より魅力的だと感じたね。だって考えてごらん。現実では空を飛ぶことも、魔法を使うことも、虹の上を歩くこともできない。だがこの夢の中なら全てができる。何だってね」

目を輝かせる彼が何だか不気味に感じられ、僕は帰らせてもらうことにしたのだけれど、いかんせん彼が強引でなかなか帰らせてくれないのです。

そのうち彼は実演してやると言いだし、おもむろに横になり目を閉じました。そして隣の人の手をとり、繋いで僕に言ったのです。

「こうして繋いだらあとは眠るだけさ。ああ、今彼らはね、恐竜時代の夢を見て草原を走ってる。僕もこれから混ざろう」

彼は笑顔たっぷりに目を閉じ寝息をたてはじめたのですが。見ているとおかしいのです。みるみる様子が変わっていきます。まるで何かに追われているような、切羽詰まったおかしな動き。その動きは次第に大きくなり、見ると寝ている全員同じようにバタバタとやっているではないですか。

きっと恐竜時代でリアリティある冒険を楽しんでいるのだろうけれども、何か変だな。必死さが尋常じゃあない。

そんなことを思い眺めていたとき。


「食われる!」



一言呻いたかと思うと、途端にシンと静かになりました。ほっぺをツンツンとやっても起きる気配はありません。声をかけても、揺すっても同じ。彼だけでなく、皆同じように微動だにしないのです。まるで死んでしまったかのように。

怖くなり部屋から一目散に飛び出した後、このことを僕は誰にも話すことはありませんでした。

あれから一度だけあの部屋に行ったのですが、変わらず彼らは眠ったまま起きる気配がないのです。

それからはもう、恐ろしくてあの部屋へは行っていません。

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