桃仙鬼夜話

17:[兵形象水](1/9)
 

壁一面が赤く染まった部屋。部屋という感覚よりも洞窟の中の広い空間のようだった。赤い壁は、岩肌に朱色の何かを塗り付けてある。所々、本来の薄黒い岩肌が覗いていた。その中央に、同じように朱く塗られた四本の柱がある。その柱にはいくつものヒトの頭蓋骨が埋め込まれており、朱く塗られたそれは、作り物なのか本物なのか。大きさはヒトのそれと大差はないようだった。

四本の大きな柱の前で、二匹の大きな鬼が立ち止まった。横に並んでいる二匹の鬼の肩には、神輿のような物が乗っている。鬼の体に対しては小さい物だが、ヒトひとり入るには充分な大きさだった。大きな鬼はゆっくりとそれを下に降ろした。中に人影があった。大きさから大人ではないようだ。その影は朱い柱を見つめていた。

四本の柱の間には、同じ朱色の幕が張られている。二匹の大きな鬼はその幕を開いた。朱色の幕内には、やはり大きな鬼が横になっていた。体を丸めてじっとしている。柱の前にいる二匹の鬼よりもずっと大きな鬼。だが、ただ大きいだけで他の鬼のような形をしていない。痩せ細り、まるで餓死してでもいるような姿だった。降ろされた神輿の中から声が響いた。

「眠っていると思ったのだが…起きている」

『そのようです』

牛の顔をした方の鬼が応えた。

「はて、では何故動かないのか。意識もないのに…今、思念が視えた。とりあえず止めろ」

『御意』

今度は馬の顔をした方の鬼が、横たわり動かない巨大な鬼の眉間を刀で刺した。特に力を入れた様子もないのに、刀はすっと鍔まで何の抵抗もなく差し込まれた。柔らかい菓子にナイフを刺すかのように。それは音もなく、鬼の方も苦しむことなく行われた。

だが。

別の場所で苦しんだモノがいた。中央都市、防衛省。館内の一室。坂田が使用している部屋だった。窓辺にある皮張りの椅子の陰でテンは蹲っていた。机上の物が散乱している。だいぶ苦しんだ様子が伺えた。テンはよろよろと立ち上がり椅子に座り直した。両手で顔を覆う。流れる汗が止まらない。

「くそ…さすがに島の中では無理か…」

「大丈夫かテン」

「ああ。島の中の本体に反響したんだろう、そのせいで温羅(ウラ)に」

うっかり返答してしまったテンはふと顔を上げる。坂田は島の中だ。この部屋にはテンしかいなかったのだ。一人の男がデスクの前でテンを見下ろしていた。



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