桃仙鬼夜話

14:[鬼と神と青年と](1/15)


空気そのものが桃色に染まっているような景色だった。桃色の雲がふわりふわりと翠色の草原をゆっくり移動する。周りの木々は、花が咲いているわけではないようだった。どうやら葉が淡い桃色をしている。見渡すかぎり翠色の草原のその先に、ぽつんと古びた家があった。古くはあるが、もともとは豪勢な建物だったように見受けられる。

門には細やかな彫刻が施され、それは石造りであった。入り口にも、両脇に大層太い石の柱があり、透かし彫りになっていた。何匹もの龍が折り重なり一本の柱になっている。家の窓にガラスなどは見えないが模様の入り組んだ格子になっていた。

その窓の向こう。

部屋の中に一人の青年が背もたれの長い籐の椅子にゆったりと腰掛け、手前にある大きな鏡をのんびり眺めていた。姿見ほどの大きさの鏡には、左右に不可思議な羽が生えている。

「坂田金時・・・絶好なタイミングの、実に好都合な"転生"具合だったねぇ。ホント楽しいよ」

輪廻転生とはよく耳にする言葉ではあるが、実際転生できるものなどは一握りでしかない。まして生前の記憶や力を持ち越して転生することはほぼ皆無である。はっきり云ってしまえばそれこそ運でしかない。

青年は櫛を通していないボサボサの銀色の髪をゆっくりかき上げた。顔の中央を横切る、赤い一文字の模様が青年の白い肌を一層引き立てていた。

「さて、どうしようかな」

青年は透き通った紫の瞳を窓の外へ向けた。一本だけ他の木々より背の高い大きな木がある。葉は一枚もついていない。一見枯れているようにも見えるが、いくつかの小さな実がなっていた。

「まだ熟してないんだよね・・・これはいらないか。あれだけいれば追い払うくらいはできるだろう」

青年はそう呟いて身支度を始めた。

「ここで桃太郎を殺すなんて、そんなつまんないことはしないだろうし。面白くなるのはまだまだこの先だ」

先ほどまで地上を映していた鏡は、今度はしっかりと青年を映している。その鏡に近づいて髪を整えた。小さな壷からどろりとした透明な物を手に取り髪に撫で付けると、それは小さな珠になり青年の髪を飾った。

「今日も男前」

ふふん、と鼻をならし得意気に釣竿を腰に差す。半ば呆れたように鏡は"聞いた"。





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