桃仙鬼夜話

10:[気配](1/6)


そこは中央都市、防衛庁の片隅だった。そのフロアに通常のエレベーターは止まらない。案内されなければそこへは侵入できないエリア、その一室だった。

背もたれの大きな皮張りの椅子に男の子が静かに座っていた。とくに面白いものがあるわけでもなさそうだが、大きな窓の外をぼんやりと眺めていた。つまらなさそうに揺れる細い足。上等な革靴は少しばかり大きいのか、揺れるたびに汚れひとつとない白い靴下の踵が見え隠れしていた。日はもうすぐ消えそうで、残り僅かな光がその子供を射す。

金色の髪。

色味を帯びた光でそう見えた。整った顔立ちがそれに違和感を与えない。歳は十二〜三といったところ。机には向かわずに、大きな窓の方に椅子自体が向いている。

「ヒトがゴミのようだ」

「そんな数いねぇだろ」

"坂田"は部屋の中央にある長いソファーに寝転び悪態をついた。もう随分こもりっぱなしで仕事をしているのだ。テーブルには何やら難しい単語と数字がならんだ書類が山積みになっている。

部屋の壁はドア以外、本棚で埋めつくされていた。本棚の前にも入りきらない本やファイルが乱雑に積み上げられている。元来、整理整頓が苦手な坂田だ。本棚の中も外もとにかく乱雑にただ無造作に積み上げられ、突っ込まれているだけ。秘書である、目の前の子供が気が向いた時だけ綺麗に整頓されるのだが、元に戻るのには一週間もかからない。

「云ってみただけだ。気にするな」

「今度は何を読んだ」

「天空に"城が浮いてる"話」

ダラダラと書類を眺めていた坂田は真剣な表情で体を起こした。

「なんだそれは」

目の前の子供は、座ったまま椅子をぐるぐると回転させ高笑いをする。

「化石化石、大昔の映画だよ。壊滅前のだそうだ。なかなか面白かったよ。下々の人間にも見せたらいいのになあ」

「脅かすんじゃねえよ」

「二門の内側からまた沢山出たらしいぞ。ほとんどが割れていたり劣化してたりで、読み取れる物はゼロだったらしいけどね。まあ当たり前だよね。けど地方から押収かけた物の中に、同じ物がいくつかあったんだって。まとめて試写してた。よくこの年月を無事にすごしたものだと思うよ」

坂田はいつの間にか仁王立ちになり、憎々しげに目の前の子供を怒鳴りつけた。

「ここ五日いなかったのはそのせいか!見ろこの書類の山を!」

目の前の子供は素知らぬ顔でまた窓の外を見る。




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