桃仙鬼夜話

8:[父親](1/7)


桃太郎は大人しく父親の手伝いをしていた。手伝いといっても、桃太郎にはその知識も技術もないので父親の仕事場に、父親の側に居るだけである。

父親の仕事場はとにかく熱い。窯ではごうごうと音をたて火が燃え続けている。桃太郎は飽きもせずただじっと赤い火を見ていただけだった。

そんなおとなしい桃太郎の姿を見るのが、マサミは久しぶりだった。子供は元気な方が良い。悪たれぐらいで丁度良い。そう思っているので、桃太郎が自分の仕事場に入る事にはあまり気分が良くない。それは嫌だという単純な事ではない。

この子は今、考えている。小さな頭で考えている。それが伝わる。それはきっと、全ての大人が答えられる問題ではないのだ。全ての"人間が"という方が正しいのだろうか。

マサミはしばらく切ってあげていなかった桃太郎の襟足を見つめた。白く、細い首が伸びた髪で隠れている。

(きって、あげないとな・・・)

名のある鍛冶師の父、マサミは街の神社や寺、果てはこの国の上層機関にまで刀等を納めている。

"鬼に銃弾は大して効かない"

それ故に術者の為に武器や呪具そのものを作っている。中にはアヤメが祈祷を施し納める物もあるが、大概はそのままである。アヤメが祈祷をするのは鉈や釘、蝶番と主には細かな大工用具だ。別棟に加工場もある。大量には出来ないが、一般家屋はほぼ木造であり、非科学的な面で物騒な世の中でもあるので需要は大きかった。

国にも納めているのだから資金源には困らないように思えるが、国から貰える額はそれこそ微々たるもの。塀の外の民に優遇はない。ただ国から材料は支給される。受注の量以上に多く支給され、常に余る程なので、アヤメの案により刀剣類だけでなく小道具も作るようになった。

マサミには中央都市に移住するよう、何度も国から通知は来ていたが断り続けていた。アヤメを一人にするわけにはいかない。桃太郎が"産まれて"からは尚更である。だが桃太郎が産まれた頃から、酷いときは毎週のように来ていた通知がぴたりと来なくなったのだ。

桃太郎が一歳の時に祖父が病で死んだ。桃太郎が二歳の時に祖母が後を追うように静かに逝った。桃太郎が三歳になった日、それは突然訪れた。

しばらく来なかった通知の代わりに、中央から六人の若者がこの屋敷に派遣された。




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