7:[贈り物](1/5)
桃太郎はヒトの形に変わった相棒の犬に抱えられて、真っ暗な山道を帰りました。ゆっくりと帰ります。木々の隙間から、細い月がゆっくりと追いかけます。桃太郎は悲しくて悲しくて、ぽろぽろと涙をこぼしていました。涙をこぼしすぎて、途中からは何が悲しいのかも分からなくなっていました。
「あれがヒトです」
犬がぼそりと云いました。桃太郎は聞きました。
「・・・鬼って何」
「生き物、生きているモノ。彼らが恐れているのは生きている鬼」
犬は真っ暗で見えないはずの獣道を、しっかり前を見て迷うことなく家路へと向かいます。
「わたしは造られた犬。遠い昔、ヒトに飼われていた。わたしは主人に忠誠を誓った。主人がわたしの首を斬った。一度死んだ犬」
犬は表情も声色も変えずに淡々と話しました。
「その後、主人のために、主人の邪魔になるヒトをわたしはたくさん殺しました。鬼よりも恐ろしいモノと云われました」
真っ暗であったのに、犬の目だけがやけにはっきりと視えました。
「わたしが、おそろしいですか」
桃太郎はたった今、ヒトに殺されるのではないかと思うほど酷い目にあったばかりです。桃太郎は少し考えました。けれど小さい桃太郎にはよくわかりません。ヒトがどうして自分を殺そうとしたのか、どうして犬が飼い主に殺されたのか、それなのに何故、飼い主のためにヒトを殺したのか、何故、今生きてここにいるのか。
けれどひとつだけ解っていることが桃太郎にはあります。桃太郎は犬にしがみついて、一言いいました。
「怖くないよ」
ヒトの形を成した犬の目から、一粒の涙がこぼれました。
犬神は苛立ちながら桃太郎のいる離れに戻ると、寝ていると思った桃太郎は何やら騒がしく音をたてていた。
「桃ちゃん?」
桃太郎は眉間に皺を寄せ、両足まで使い力任せに鎖を切ろうとしていたのだ。額当ては外したのか外れたのか、あらわになった四本の角の周りにはうっすらと汗が光っていた。桃太郎の体に、紫色の霧状のモノが立ち込め纏わり付いている。手首には血が滲んでいた。
「桃ちゃん止めなさいっ手が!」
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