6:[鬼子](1/9)
桃の中から生まれた男の子は桃太郎と名付けられ、その後も病気ひとつせずにすくすくと育ちました。ですが、桃太郎は山を下りることを許されませんでした。
桃太郎のおでこには四本の角。
明らかにヒトのそれではない姿に、桃太郎の家族は恐れておりました。桃太郎をではなくそれを目にした時の里の者に。しかし桃太郎は遊びたい盛り。生まれた時から一緒にいる、一匹の犬をつれて里に下りようと決心いたしました。桃太郎は五歳になろうとしておりました。
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人気のない山奥で獣道を大きな男が荷車を引いていた。月はまだ昇っていないので辺りはすぐ先が見えぬほどの暗闇である。例年ならばもう雪が積もっていて当然の時期なのだが、今年は全く雪がない異常なほどの暖かい冬だった。
明かりのない山道を、それでも迷う事なく躓くことなく。獣の耳を頭から生やした男が先頭を歩いて、荷車を引く大男を誘導していた。緩やかに扇いでいる黒い扇子からは、ほとほとと蛍火が落ちては消えていく。荷車の男は懸命にその後を追っていた。
その荷車の上では、金色の髪の男が何やら菓子のようなものをもそもそと無言で食べている。
「おい、それは食うな!オレが食べようと思って"持って"きたんだぞ!」
「固いこと云うなよ、これマジでうまいねぇ」
先頭を歩いていた犬も猿に怒鳴りつけた。
「そこは桃ちゃんの席!下僕は歩けバカタレが!そんなモン食べてるから退化すんのよ!」
「うるせぇばあか。"ダンゴ"があるから気にしねェよ」
「屍になりたいの?」
犬はそう云うと、もう一つの扇子を取り出して両手で持ち直す。蛍火は消え、扇子の骨組から飛び出した長い針が鈍く光を放った。
「お?やるならやるぜ?」
負けじと猿は懐から棒を出し一回振ると、それは三倍の長さに伸びる。あざやかな朱色に、金の模様が細やかに入っていた。
「前から云おうと思ってたんだけど・・・ホント趣味悪いわよソレ」
「猿と云ったら武器はこれだろ。てめェこそセンスがねェ、扇子だけに。ぷ」
「捌くぞクソが!」
うんざりとして桃太郎は静かに鴉を促した。
「さっさと帰ろう」
「はい。明かりがないので少し揺れます」
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