残業の後のバレンタイン
[部長の呟き【過去編】](1/2)




「とーやー」

「んー?」


俺は藤田冬也。
高校時代は髪を染めていた。


その理由を彼女に聞かれたとき、あの日頭に蘇った。


「放課後ゲーセン行かねえか?」

「あー、ごめん………俺、放課後は図書室に行きたくて」

「そっか。相変わらず本が好きだな! いい事だ。オレなんか一ページ読んだら寝るもんな」



そう言って去っていく友人は、放課後が待ちきれないみたいだ。

…………本も好きだけど、あの子が好き、なんて言えない。
恥ずかしすぎる。



実は、下心もありますなんて言ってみろ。ドン引きだ。


「冬也、またな!」

「んー、また明日」


放課後。

挨拶をして俺は図書室へ向かう。



──ガラッ



戸を開けると、もうきみの姿が見えた。

あぁ、可愛い………。
珍しく、いつも隣にいる眼鏡の友人と、クラスメイトらしき女の子が二人いた。



──彼女と初めて会った場所が図書室。
俺にとって、大切な場所。

入学式の二日後、図書室に彼女はいた。



「う〜ん、もうちょい」

彼女は背が小さいから、上の段は届かないみたいだ。

「ふんぬ〜!」

ふんぬ〜?
クス、面白い子。


「どれが取りたいの?」

「え?」

「本だよ。どれ?」


クルリと振り返った彼女の瞳に吸い込まれそうになる。
つぶらな瞳にドキッとしたのは内緒。


一目惚れといえばそうなのかも。


「あ、あの本です!」

「これ?」

「はい! ありがとうございます、先輩!」


交わした言葉はそれだけだった。





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