ファシネーション

     [頑張れ](1/20)


来たる9月21日に備えるべく、大和くんは毎日計画を練っている様子だった。


どこそこのホテルのレストランで夜景の見える席を確保し、そのホテルの部屋も1つ予約したとかなんとか。


なんだかプロポーズでもするみたいなシチュエーションで、だけど大和くんからしてみれば、それぐらいの覚悟が既にあるんじゃないかな、と私は思う。


きっと喜んでくれる。小鳥遊さんは、きっと絶対、泣くほど喜んでくれるはず。


だから大丈夫だよ。不安がって何度も確認してくる大和くんを、私は毎回宥めていた。



8月29日以降も、私たちの身体の関係は続いていた。


だけど根本(こんぽん)が違う。ある意味では、私は無でいるように心がけるようになった。


あと少し。あと少しの辛抱だから。





9月21日まであと1週間というところで、私は藍と飲みに行くことになった。



「ねぇ、菜緒さ、痩せた?」


居酒屋で店員さんに案内された席へ座り、一度目の注文を終えたあと、藍は私にそう問うた。


またその質問か。多いなぁ、最近。



「痩せたっていうか……顔がやつれた気がする。うん、バーベキューのときよりやつれてる」


「そう? 生活はなにも変わらないけど……」


「なんかあった?」


「全然」



生ビールが届けられたので、ひとまず乾杯。


なにかを押し込めるように、半分もごくごくと飲んでしまった。


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