統治された世界
[第一話](1/7)
「女将を呼んでくれ」
「そっちに掛けて、待っていて下さい」
「分かった」
少女は男に手を引かれながら、一軒の店に足を踏み入れた。店番をしていた女が奥の部屋へ行き、女将という者を呼びに行った。少女と男は、入口の側に固められて置いてある椅子に座る。
店には少女と男以外に、何人もの男と女がいた。少女は意味なく視線を泳がせる。どうせ嫌でも毎日見る風景になるのだ。今日、目に焼き付ける必要はない。そんなことを少女は思った。
不意に男は声を発した。
「恨むなよ?」
「分かっています。私が恨むべき相手はあなたじゃありません」
「賢いな」
「そんなことで褒めないでください」
「無愛想な女は嫌われるぜ?」
男は何が楽しいのか、喉を鳴らす。少女は僅かに顔を顰めるだけで何も言わなかった。男は少女の顔を見て、悪かったよ、とだけ言った。それにしても、と続けるように男は言葉を吐く。少女にとっては、どれも戯言にしか聞こえない。
「目が綺麗だ」
「ありがとうございます」
少女は感謝の意を込めず、事務的に答えるだけだった。少女の前に、一人の老婆が立っている。老婆は少女を一瞥すると、男に目を向ける。
「この子かい?」
「そうですよ、女将」
「良い子じゃないか」
「そう思うでしょ。それで……」
「早い。早い男は嫌われるよ」
「へっへ、これはこれは」
少女は口をはさまない。この一件に、少女の意見は関係ない。関係あることは、少女の若い身体だけである。
「お嬢ちゃん、歳は?」
「一七です」
「若いね。お酒は?」
「それを訊きますか?」
「若くても飲める奴はわんさかいるさ。お嬢ちゃんはどうなんだい?」
「飲んだことないから分かりません」
「そうかい。それにしても、一七かい」
「若いと問題が?」
「あるとすれば、酒が、ってだけさ。処女かい?」
「…………」
「別に処女じゃないからといって、私は怒らないよ」
「その通りです」
「そうかい」
「処女の方が高くなるんで?」
「初物が良いって客がいたりするんだよ。あんただって――」
「俺の趣味は言う必要ないっしょ」
「ま、あんたの場合、馴染み客だから値は考えるよ」
「ありがてぇ」
「それにしても、よくこんな子、見付けたね」
「表でちょっとね」
「だろうね。それで値のことなんだが」
「待ってました」
「二人共、着いてきな」
女将に連れられ、男と少女は奥の部屋へと消える。店に居る男達の目が女から少女へと動く。まじまじと少女を見る。気持ち悪い、と少女は思う。しかし、この男達に少女は身体を任さなければならない。
少女に拒否権などない。遅かれ早かれ、こうなる運命だった。少女は自分自身に言い聞かせるように、そう思った。
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