隣の上司はよく食う上司だ
[16、隣が、隣じゃなくなるとき](33/33)




「……旦那さん、とか急に呼ぶから…………驚いた」

「え、だって事実ですよね?」

「あぁーーー!!もう、お前なぁー!」


海斗さんは再び私を睨み、苛立ったように急に立ち上がる。

そして、私の隣にきて肩に顔をうずめた。


「…やぁ、…んっ、ちょっと……くすぐったっ、」

「ーーっ、……あぁ、もう本当…………なんなの」

「ひゃっ、そこで、しゃべんなっ、いで……あっ……!」

「…………………………ダメだ、これ俺が自爆するやつだ」


なんだかよくわかんないことを呟いているみたいだが、こっちはくすぐったくてそれどころではない。思わず身をよじると、それに合わせて彼も肩から顔をあげた。……耳、真っ赤。


そしてそのまま、海斗さんは私を真っ正面から抱き締めた。


「……はぁ、……あんま、煽らないで」

「…………いや、煽ったつもりないんですが」

「それ、マジでたち悪い………………俺、今最大限に我慢してるからさ」

「……???」

「ケガ治るまで、お前になんもできないだろ?だから、あんまり誘惑するようなこと、しないで」


ギュッ……と先程よりもちょっと力をこめて抱き締める彼。それでも、私が痛くないように気を遣ってくれているようだ。



「………本当、………どれだけ、俺を夢中にしたら済むの……俺の奥さんは」

「…………!!!?」



……あぁ、さっきの海斗さんの気持ちがわかった。



確かに、ちょっと……いや、かなり、



「………………幸せ」

「……??」


海斗さんは意味不明みたいな顔して私を見るけど、無視。


海斗さんの言葉やしぐさ一つ一つが、私にとっての幸せで。

悲しみは分け合えないかもしれないけれど、この幸せは分け合えたらいいな、なんて。


そんな、柄でもないこと思ったりしてること、きっと海斗さんは気づいていない。

夫婦になってずっと一緒にいたら、いずれ気づいてくれるのかなー……でも、気づかないならそれはそれでいいのかも。


……なーんて。
 


まだまだ、夫婦になるには前途多難なんだよなぁ、と。

そんなことを見ないフリして、今は今の幸せに浸る私だった。




*****


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