隣の上司はよく食う上司だ
[5、隣の上司の猛アピール](14/14)


「……さっきの、冗談じゃないからな。」
「え、?」
「好きだっていうの。マジなやつだから。」
「……酔っぱらってたわけじゃ、なかったんですね。」
「はぁ?俺、一滴も飲んでないけど。」
「へ、?え、だって飲み会にいて、」
「お前、俺が飲酒運転するとでも思った?」
「あ、そうか…………じゃあさっきの素面で言ったんですか!?」
「その『うわぁ、この人恥ずかしい…』みたいな目で見ないでくれ。本当に恥ずかしいから。……お前の方こそ、酔ってて覚えてないのは勘弁してくれよ?」
「あ、その手が……」
「ないな。先手しといて正解だった。」
「くそーーー、」

本当に悔しい。珍しく先取られた。
本気で悔しがる私を見て、部長はなんだか楽しそう。

くそぉ、一矢報いたいな……

なんてことをしているうちに、あっという間に焼きうどんを完食する部長。

明日は休日だから多少遅くなっても構わないのだが、ここに泊まっていく訳にもいかないのでそろそろおいとますることにする。


「じゃあな、笹原。また、月曜日。」
「はい、さよなら、部長。」

私は靴を履き、ドアに手をかける。

あ、

「あっ、」
「ん、なんか忘れ物か?」

私がなにか思い出したようにいきなり振り向いたため、部長はそう尋ねる。
それに対して、私はなるべく平常心でそれに答える。

「はい、そうなんです。忘れ物しちゃいました。」
「なんだ?俺、取ってこようか?」

部長は本当に疑ってないらしく、私に背を向けてリビングに行きかける。
その腕を強く掴んで、

「えっ、」

チュッ、

「…………仕返し、です。それでは、おやすみなさい。」
「……。」

それだけ部長の耳元で囁くと、すぐさま私は玄関から出ていく。
ドアが閉まる瞬間振り返ると、部長が真っ赤な顔の口元を片手で隠していた。

ドアが閉まってからすぐ、私は階段をかけ降りて自分の部屋に入った。
そして玄関に座り込む。

「はぁぁぁ、息、止まるかと思ったぁ……」

ほっぺたにキスなんて、いつ振りだろう?小学生??

振り返りざまにした、部長の頬への軽いキスは効果アリ。部長の顔なサッと赤く染まり、見事に仕返しは成功。

「……しかし、これはしばらく、寝られそうにないな。」

そう、そのキスは私の心臓までもうるさくさせた。こちらは自業自得。

私は火照った体を冷やすべく、少しの間玄関の冷たい床に寝そべっていた。











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