隣の上司はよく食う上司だ
[4、隣の上司と急接近!?](14/14)

私は咄嗟に自分の口を手で塞ぐ。
部長は私の甘い声に驚いたのか、息を飲み、回していた腕の力を緩める。その瞬間を私は見逃さず、するりと部長の腕から逃げ出す。

「あはは、すいません、なんか、……あの、帰ります!」
「あっ、おい、笹原、」
「後片付け、やっぱお願いしますね!!それじゃあ!!」

私は会話を強制終了して玄関に向かう。
部長は追いかけてくる余裕がないのか、少し振り返ってみるとリビングに顔を真っ赤にして立ち尽くしていた。

「お邪魔しましたー!」

私はわざと大きな声で挨拶をして、ドアを開ける。
そして素早くドアを閉めると、その場に座り込んだ。

今、きっと、私の顔も真っ赤だ。

「……なぁーに、やってんだよ、私…………」

ふぅーー、と長いこと溜め込んでいた空気を吐き出す。いまだに心臓が激しく拍動している。心拍数が高すぎるのか、少し耳鳴りがする。

部長に触れられた部分が、まだ熱い。

ゆっくりと手を首筋にもっていくと、冷えた指先が熱をもった首に心地いい。

……なんでだろ、抵抗できなかった。

あれだけ手を出すなとかどうこう言ってたのに、今確かに、部長に触れられてドキドキした。しかもあんな甘い声をあげてしまうなんて。

でも、

「まぁ、いっか。」

こんなに心が満たされてるんだ。
何時間か前に自分は襲われかけたのに、そんなこと今ではどうでもいいって思えるほどに、今は心が温かい……というか熱い。

少しの間、やっぱり部長にもたれてもいいのかもしれない。

そんなことを思って私は立ち上がり、階段へ向かう。


……その夜は、しばらく部長の熱が消えなくて、一人でも全然寂しくなかった。





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