隣の上司はよく食う上司だ
[1、隣の男はよく知る上司](9/9)

「できましたよー、」

私は部屋の中央にあるテーブルにできた料理を並べる。
……と言っても対したものはない。

私の家に残っていた食材を持ってきて、ほうれん草やウィンナー、チーズを入れたスペイン風オムレツとジャーマンポテト。あとは、食パン。

ざっとできるのはこんなものだった。

それでも部長は神妙な顔つきをして、私に言う。

「……笹原は、料理上手なのな。」

あんたができないだけだろ、と喉まで出かけたが引っ込めた。
危ない危ない。

「お口に、合うかわからないで、」
「美味い。」

気づいたときにはもう手をつけていた。待ちなさい。

余程お腹が空いていたのか、すごい勢いで食べる部長。なんだか犬みたいだな。

そんな失礼な感想を部長に抱きつつ、私もオムレツを一口。うん、なかなか。

しばらく本気で食べていたのか、残り少なくなってから部長はやっと言葉を発する。

「久しぶりに、ちゃんとした朝飯を食った。」
「まぁ、あの冷蔵庫じゃそうでしょうね。」
「仕方ないだろ、仕事が忙しいんだ。」
「あれーおかしいなーー、私も同じ会社だなー、あれー?」
「……じゃあ、笹原がおかしいってことで。」
「あんな冷蔵庫で部長がおかしくないなら、私含めほとんどの人類おかしいでしょうね。」
「……。」

部長は黙ってポテトをむしゃむしゃ。今度はヤギみたいだ。

全く生活感がないキッチンと同様、部屋も物が少なくとても整理整頓されている。どうやら片付けは得意らしい。  

私はあんまり食欲が出ず、結局残して部長にあげた。
それもペロリと完食して『ごちそうさま。』と手を合わせる。

「ありがとうな、旨かった。」
「いえいえ、私も久しぶりに誰かと食事できて楽しかったです。」
「久しぶり……?」
「そこ突っ込んだら部長でも殴ります。」
「黙ります。」

そんな会話を交わしつつ私はキッチンへお皿を運ぶと、部長は『片付けは俺がやる。』と言うのでお言葉に甘える。

部長を眺めながら、キッチンに立つ部長はなかなか絵になるなーなんて思う。
喋らなきゃいい男なのに……と思いながら時計を確認するともう7時。そろそろ支度しないと。

「部長、もうそろそろ、自分の家に戻ります。」
「おう、そうか。」

部長はキッチンから出てきて、玄関に向かう私の近くまで来る。

「じゃあ、また会社で、」
「あのさっ!!!」
「……?」

部長はドアに手をかけた私を呼び止め、何だか焦った声を出す。
なんだ、まだ言ってないことでもあったのか?

私はワケがわからず突っ立っていると、部長は言いづらそうに口を開く。

「あ、あのさ、」 
「言うことあるなら、さっさと言ってください。」
「……言っても、怒らないか?」

……あんたは子供か!!!
大体こういう時って、親は『怒らないから言ってみなさい。』と言って、打ち明けたら最後メチャクチャ怒られるのがオチだ。

はぁ、なんか嫌な予感がする。
それでもこんな思わせ振りすぎること言われて聞かないという選択は私にない。

「……多分。なんですか、?」
「…………あのさ、ここ、」

そう言って部長は私の首もとを指差す。
その指差した先を、玄関にある全身がうつる鏡で確認する。

……そこには、虫刺されと言い訳するには大きすぎる赤い跡。

「ぐっ、っ……!!」

とりあえず、腹に一発入れておいた。










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