自殺した娘のスマホに残されていたものは!?!?!?
[謎の男](1/29)
さまざまな感情が頭の中で渦巻いていた。その中でもっとも大きなウェイトを占めていたのはもちろん怒りだ。
しかし、こういう状況において怒りは冷静な判断を鈍らせるだけの負の感情でしかない。
わたしは気持ちを落ち着かせるために、とりあえず運転席側から2メートルほど距離をとって様子を伺った。
マサルという男がどんな人物なのかを確認するつもりだったが、残念ながらシートを倒して車載テレビを観ていたため、顔はほとんど見えない。
妹のほうに目をやると、左手にスマホを持ったまま、顔の位置まで右手を上げて、指で作ったOKサインをわたしに向けた。
わたしは軽くうなずき、ゆっくりと車に近づいていき窓をノックした。
男は慌ててシートを起こし、わたしのほうを見た。
初めて目にする、マサルさんという男は、わたしが想像していた人物像と、あまりにもかけ離れていた。
眼鏡の奥にある眼球は、少し充血しているせいか、ひどく濁って見える。
そして、白髪混じりの頭髪は、両サイド以外は地肌が透けて見えるほど薄くなっていた。しかも、不自然なほど白くキレイに生え揃った歯は明らかに総入れ歯だ。
間違いなく60歳は過ぎている。
人差し指を下に向けて、窓を下げるように指示すると、男は素直に従った。
「なんでしょう?」
怪訝そうに目を細める男に、わたしはひと呼吸おいて、ゆっくりと口を開いた。
「麻里の父親です」
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