火竜に継ぐ唄風

火竜人(カリュウビト) ( 2 / 8 ) 



  夜はが当たり前のように訪れる。昼間からずっと寝ていたマナカにとってベッドの上で過ごすことは死ぬ程退屈であった。


「オババさん……」

 すっかり日も暮れ、夜が訪れる。空に輝く金色の三日月は見事な曲線を描き、立ち止まるほど美しい光は人々の目のなかに吸い込まれるかのように見とれさせてしまいそうだ。

 さらに多彩な光で波を打つように動くオーロラに無限の歴史を語りそうな満天の星空。フラヒヤ山脈の絶景にもなりそうだ。

 その下でオババは明るい集会所の横、村の入り口で一人焚き火をしている。

 焚き火の火は赤黒くオババを照らし、体も心もどこか優しくしてくれるように暖かくしてくれた。毛布を纏ったマナカの存在にオババは気が付く。

「おや、マナカ殿……」
「オババさん……」

 二人の間に夜風が吹き抜ける。昼間も寒いが夜と比べると手先が凍り付いてしまうほど寒い。

 周りは意外に明るく、焚き火の灯りが拡散するように雪に反射する。

「まぁ、お座り」


 オババの隣に腰を降ろし、顔が赤黒く照らされる人数が二人になる。

 パチパチと薪の弾ける音を立て揺らめく炎は炎の中に、奥に何かがあるかもしれないと何故か不思議な力を感じていた。

 オババの顔がゆっくりと上がる。手に持っていたカップを一口入れると『ふぅ』と一息ついてマナカに話し掛ける。

「話は聞いておる。あの少年を助けるために武器を握ったとな」
「……けど、何にもできなかった。ブランゴに一撃しか与えられず、自分はボロボロ。死がすぐそばにあると感じたらすごく怖かったよ……」

 オババは傷があるマナカの腰を示した。

「マナカ殿は無力ではなかったとあたしは思うよ。武器を握っていなければあの少年の命はなかったかもしれない。その守った証は横腹の傷にしっかり刻まれているわけではないか」

 オババの話は深い意味を感じる。人によっては意味ない言葉。当たり前の言葉に感じる者もいれば、その一言で悩みを晴らしてくれたり人生を大きく変えられる感じがする。

「……オババさん」

 恥ずかしくなかなか出せなかったボソッと言った声もしっかりとオババさんは聞いていた。

「どうしたのぉ?」
「あのとき戦って思ったんだ。怖いって……何だろ?」

 そう言いながら顔を再び下に向ける。自分の息が暖かく肌で感じるのか、目で白くなり消えてゆくのを見て冷たいのか自分でも分からない……

「臆病者、卑怯者、いろいろあるけどいい面で言えば自分を守るためだと思うよ」

 顔を少し上げ、焚き火の炎を見つめる。先ほどとはあまり変わりはないが、炎の揺らめきが別の動きになっている。

「自分を守る……か……」


 自分に言い聞かせるようにマナカの口が小さく、小声に喋る。


 沈黙に二人きりの時間が流れてゆく。互いに理解しあったのか、二人の口から言葉は出さなかった。

 正面の焚き火の暖かさだけを感じていると再び駆ける夜風が驚かせるかのように寒さを背中へ与える。互いの気温を感じて暖気と冷気の入り交じったその空間は何故か落ち着くことができた。


 消灯時間なのか集会所の灯りが小さくなりやがて消えた。

「そろそろアタシらも寝るかのぉ」

 家までの松明に火をつけ、焚き火の後始末をする。細かい灰が舞い上がり、闇のなかへ消えてゆく

「そうじゃマナカ殿、少年を見にきなされ、オヌシが一番心配しているだろう」

 オババの意外な言葉にマナカはクスッと笑う。

「ちょっとだけですよ」

 松明の灯りは予想以上に強かった。いや、周りの雪が光を反射しているのであろう。だがやはり暗いといえば暗い。こんな道を毎夜通るオババを見るとやはり心配だ。
 暗い道を進み、オババの家に到着する。中にはやや大きめなランタンがテーブルに置かれていて火をつけると部屋の隅まで明るい。

 村長の家だからといって決して広いわけではなかった。本人が言うからには、広すぎるのも落ち着かないようだ。

 実際にハンターの家のほうは窓が全開で寒いが、広さは集会所の次ほど大きい。


 オババはランタンを片手に奥の寝室に入る。

「わ……綺麗……」

 ランタンの中の蝋燭は焚き火の勢いの強さとは違い、思わず口に出してしまうほど静かに美しい。蝋燭職人ではないが芯の質は自宅のものと全然違うことが分かる。

 マナカも何度か蝋燭を見てきたが、多くが芯を葦にしたものが多く、パチパチと火が跳ねることもある。自宅のもそうだ。

 そんな美しい蝋燭の火に照らされる。ベッドには誰かが寝ていてランタンを近付けると、毛穴までしっかりと見えてしまうほど寝顔に照らされ、その正体が明らかになる。

「わ……」

 自分でも疑問に思ってしまうほど少年の顔がしっかりと見えた。血で汚れていた顔はしっかりと洗い落とし、土がついていた髪ははっきりとした赤黒い色に見えた。

 寝息が聞こえる。その発信源の顔を見たマナカはその顔を見つめる。
「なんか……可愛い」

 その顔は初めて会ったときと違い、化け物に見えたあの顔は艶やかな肌に火竜のイメージがする髪型『レウスレイヤー』に近い髪なその雰囲気は格好よさと可愛さがイメージしてしまう。性格は分からない。だけどきっといい性格のはずだ。

「まだ気が付いていないのかな……?」
「今はまだだけど直に目を覚ますと思うよ」

 その言葉にコクッとうなずいた。

「ふぅ……さて、あんまり長居するのもあれだしそろそろ帰りますか。早く起きれなくなってしまいますよ」
「はいよ、マナカ殿も来てくれてあの子も嬉しいと思うぞ」

 その言葉に恥ずかしながらもマナカの頬は赤く上がっていた。
 村長の家の扉が音を立てて開く。マナカは振り替えり、オババに手を振った。
「オババさん。また明日ね」
「あいよ、おやすみ」
「おやすみぃ〜」

 そしてマナカは松明を手に、扉の向こうの暗闇へ消え去っていった。

 雪の降らない夜はふと見上げると手の松明の灯りに負けないほど満天の星空が星一つ一つが輝いていた。

 流れ星が見えたが、マナカの目は半開きだった。今夜は眠れないと思っていたが疲れを感じる。自分の家に到着しベッドに飛び込むと、目を開く力が抜け一気に眠りについた。

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