火竜に継ぐ唄風

火竜人(カリュウビト) ( 1 / 8 ) 



  目が覚めるとマナカは自分の部屋のベッドに寝ていた。

 夢だったのか? そう思いながらも横腹を触ると丸く深い傷があり、そこは包帯で巻かれていてうっすらと赤い血の跡が染み付いていた。

 もうお昼ごろだろうか、外の光は眩しくこの地に住み続ける小鳥たちが小枝から脚を離し翼を広げながら青空へ飛んでいった。

 違和感があるものの痛みはあまり感じない。体を起こし、外に出ようとしたその時……


ーーガチャ

 小さな家の扉が油を刺していない蝶番の鉄同士が擦れるような音を出しながら開き、村人の一人の女性が入ってくる。

「あら、気がついたんだね」
 力が抜けたようにマナカの口が小さく開く。

「私……どうしていたの……?」
「ちょうど日が沈んだ数分ごろかな、マナカを担いでハンターさんが帰ってきたんだよ」

 村人の女性は白いドドブラリンゴの皮をナイフで皮を剥きながら話は続いた。

「腹が真っ赤になって皆、驚いていたんだよ。けどマナカはぐっすりと寝ていたんだ。
 けど、横腹に噛み付かれた跡が深くて小指が一つ入るくらいの大きな穴が沢山あってすぐ治療したんだよ」

「そっか……ありがと」

 ドドブラリンゴの皮を剥くと真っ赤な身が現れる。それを八等分にして堅い芯を一個一個取り除くと皿に盛り付けられ、一本のフォークが切った赤い身に突き刺さる。

 その皿をマナカにゆっくりと差し出す。

「夜からなにも食べてないでしょ」

 まるで赤い宝石のような皮の剥いたドドブラリンゴはみずみずしく日の光にあたり輝いているように見える。

「ありがと、なんかこのリンゴも久々だね」
「いいって、早く食べないと餓死しちゃうぞ」

 ドドブラリンゴは豪雪地帯しか実のらない高級といえば高級な果実で、その実は皮が真っ白で中身は真っ赤である。
 厳しい寒さの中で育ったその実はそこら辺の果物と比べ、口の中に入れるとみずみずしさが広がり、甘くてジューシーである。

 軽い冗談を聞いて、ふと部屋の暖炉を見た。パチパチと音を立てる火は微量の風を受けながらわずかに揺れていた。

 思い出す。

 赤い身(からだ)に小さな火。最初見て驚いたあの時と助けたい気持ち。

 空を覆う翼にブランゴを一撃で倒した地を駆けたあの焔。

 味わったドドブラリンゴを喉に通してマナカは尋ねる。

「あのときいた少年は今どうなっている?」

 忘れたい思い出や嬉しかった出来事、短時間で経験したことを思い出す。そして自分がした一番心配な事に内容にマナカは尋ねた。


「大丈夫だよ。怪我の治療もしたし、ゆっくりと休ませているよ」

 マナカは安心して胸を撫で下ろす。少年の命は救われたことに嬉しさが感じる。

「そういえば途中、リオレウスを見なかった?」
「え?」
「私たちが帰って休んでいたとき、リオレウスがこの村の真上を通って雪山へ飛んでいったんだよ」
「へぇ〜」

 恐怖感を感じず、興味を持ったかのように耳を傾ける。

「そのリオレウスは甲殻もボロボロで弱っていたんだ」
「じゃあ、別のハンターと戦って逃げてきたってこと?」
「理由は分からない。ただ、あいつ(リオレウス)が雪山を飛び越えるには無理がある。私たちは麓の湖で体を休めると思っていたんだ」

 リオレウスがマナカを襲うと考えていたんだろう。覚悟を決めたような言葉で村人の心配を引っ繰り返すような言葉にマナカの口が開く。

「……実はリオレウスに助けられたんだ」

 小さな木枯らしが音を立てて駆けてゆく。常識ではありえないような言葉で辺りが静かになった。残されたのは静かな空気と暖炉のゆらめく火がパチパチと鳴らす音。
 普通ではありえない話に辺りが静かになる。とりあえずこのまま黙ったままにもいかないのでタイミングがズレながらも話し掛ける。

「ふ……普通だったらありえないよね?」
「うん、あんなに凶暴なリオレウスが助けてくれるわけがない。けど……」
「けど?」
「もしかしたら私の思い込みかもしれない、幻覚だったかもしれない。
 夢を見ていたのかあの少年が立ち上がっているときリオレウスに見えたんだ。なんかその、か……か……かっこよかった……」

 マナカの照れた顔を見てほっと息をつき、村人の口が開く。何ともメルヘンチックな表現に吹かないように笑いをこらえる。

「……ほれちゃった?」

 その言葉を聞き、冗談と分かりながらもマナカの顔が赤くなる。

「ち……違うよ! 第一、私がリオレウスのお嫁さんになれるわけないでしょ!」

 何か慌てているのかマナカの言葉は早口だった。

「冗談だよ。きっと疲れていたんだよ」
「うん……」

 皿のドドブラリンゴも空になり包帯を巻変える。白い包帯で隠れた横腹は血で汚れ、痛々しく丸い穴の深い傷が残っていた。

「これはリオレウスじゃないよね?」
「ブランゴに噛み付かれた跡。リオレウスだったら歯形が大きく傷ももっと深いと思うよ」

 血で汚れている横腹を拭き取り、再び包帯を巻き、痛々しい傷跡は白い布で隠された。

「痛くはなさそぅだけど、あんまり動いちゃダメだよ。傷口が開いちゃうからね。
……そういえばあの少年はオババさんの家で休んでいるから、動けるようになったらお見舞いに来てね」
「分かった」
「まだ意識はないけどマナカがきたら、きっと早く気が付くと思うよ」

 そう言うと村人は皿を片付け帰る支度をする。オババにマナカの意識が戻ったことを報告するのだろう。
「あの……」
「ん?」
「……ごめんなさい。もう少し早く帰ってこればこんな事には……」

 一気にマナカの表情が暗くなる。皆に心配させてしまったことを気にしている。一歩間違えれば命を落としてしまう事に罪悪感を感じ、ついでに言うならあの姿で村に返ってきたことに恥ずかしく思っている。

「……気にしないで」
「えっ?」
「だって、マナカがいなければあの子こそ命を落としていたに違いない。
 救った事には自身を持ってみなさい。だけど、ボロボロになって帰ってきたことには胸を張っちゃだめよ。
 プラマイ0どころかマイナスが強くなっちゃうよ」

「……うん」
「じゃ、ゆっくり休んでいてね」

 そう言うとドアの扉が開き、村人はマナカの視界から消えていった。

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