小さき焔の息吹 ( 11 / 11 )
マナカの横腹にブランゴの牙が噛り付く。その牙はたやすくマナカの服を貫き、深い穴を開けていった。穴の開いた服がブランゴの牙と共に、徐々に血の色に染められてゆく。
ブランゴを離そうと歯を噛み締めて痛みをこらえ、頭を片手で押さえると、もう片手で拳をつくりブランゴを殴り続けた。
――グジュ
そのたびにブランゴの顎の力は強くなり、牙は傷に深く潜り込む。激痛はさらに痛みを増し、肉を絞られるかのようにマナカの横腹は音を立て、出血の量を増やしてゆく。気が付けば、体に赤い川ができているのだ。
鼻先を叩いたところでブランゴはようやくマナカの横腹から離れ、また距離をおく。大剣のヴァルキリーブレイドは滑りぬけ、マナカの手元にない。
あまりにも横腹の痛みに耐えず、ついにはマナカまで倒れこむ。
ブランゴの牙による痛み、少年を守れなかった自分の無力さに温い吐息が漏れ、苦しみに思わず、涙が出る。
マナカが倒れた後、予想外な場面にマナカは出くわす。
まるでバトンタッチしたかのように、少年がフラフラだが立ち上がったのだ。
「君……」
立ち上がった姿に嬉しさが感じる。
血で汚れた髪と顔の少年は大きく息を吸う、マナカもブランゴも立ち上がった少年に釘付けになった。そして、少年は赤い眼(まなこ)で睨み付けるかのようにブランゴを見る。
少年の口の中が明るくなり、その明かりは顔を赤く照らしてゆく。
明かりは激しく強くなり、口から漏れたのは炎。その様子は荒れ狂う炎のよう。赤く揺らめいた火を見てまさかとマナカは思った。
瞬きの回数により、徐々にある姿に見えてきた。
赤い姿に翼、威圧感のある顔、小さかったあの体が大きく見える。最終的に見えた姿は……
「火竜(リオレウス……)」
口の中の炎がついに放たれた。雪山の麓を走る炎の球。通ったところの水気を蒸発してしまうような勢いで回りの空気を燃やすその赤黒い球は、ブランゴに向かってまっすぐに襲い掛かる。
その球をブランゴは浴び、炎の球は爆発して弾け飛ぶ。煙と業火に包まれたブランゴは自らの厚い毛皮に火が燃え移り、暴れるように苦しむ。そしてとうとうブランゴの命は炎の中に包まれ、力尽きた。
同時にやはり限界があったのか少年は再び倒れこむ。リオレウスに見えたあの姿は幻覚だったのか……
とりあえずブランゴはマナカが致命傷を与えた後一体だ。
お互いに瀕死状態のマナカとブランゴ。痛みに耐えたのか慣れたのか。いや、自分の脚に鞭を打って横になっていた体を立ち上げる。だが、体は不安定に揺れていて今倒れてもおかしくないほどだ。
ブランゴも血だらけの体を腕で支えて、後ろ足で立つ。しかし、その体は一気に力が抜けたように、前へ倒れこんだ。ブランゴの後ろから人の姿が現れる。
「ハ……ハンターさん……」
そこにはヴァルキリーブレイドとは違う、別の大剣を持ったハンターの姿があった。あのときのブランゴはハンターが後ろから斬り付けたとどめだったのだ。
レイアSシリーズを纏ったハンターは、持っていた大剣を背中に戻し、マナカの側へ駆けよった。
「ハァハァ……」
苦しい戦いも終わり、息を整えようと空気を吸う。安心したのか足の力が抜け体が傾く。そのマナカの体をハンターはしっかりと受けとめた。
「ハンターさん……あの子も助け……て……」
意識を維持しようと耐えていたが、ついに目の前が暗くなる。その場には二体のブランゴの死体と倒れている少年。
そして疲れ果て、横っ腹に深い傷を負った少女とハンターが残された。自然の明るさも終わり、雪山の麓は暗闇の世界となった。
やっぱり夢だったのか……?
感謝のお礼なのか。心を持ったような火竜が小さき焔の息吹を放ち、助けてくれた姿だけが脳裏にしっかりと焼き付いていた。
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