火竜に継ぐ唄風

小さき焔の息吹 ( 10 / 11 ) 



  マナカは大剣を持ち構え、ブランゴに近づいてゆく。武器の中でも大剣は重さが他の武器で、トップクラスである。その分、重量がある大剣は、一撃が大きい。

 おまけに柄という武器の端を持っているため、いくら雪山草が入った袋をポイポイと投げることができても、握り方すら知らないマナカが持っている大剣は、不安定でフラフラと揺れている。

 ブランゴの距離が近くなったことで、マナカは遠心力を利用してその大剣を反時計回りに振り回す。

「てぇい!」

 しかし、余りにもスウィングの遅さで『避けてください』と言われたかのようにブランゴは後ろへ飛び、大剣の攻撃範囲から外れた。

 これでブランゴは攻撃してきたマナカに攻撃体勢を見せる。それを見たマナカはゾクッとして一歩下がる。下がった右足は震えていた。

『怖い』


 これが今、マナカの心の本音だろう。

 ブランゴは近づいたり離れたりして、大剣を構えたままのマナカの足だと追い付けない。
 ついに前後左右に動いていたブランゴの一体がマナカへ一直線に走ってくる!

 手足の4本を使った速さはマナカの予想をはるかに越えていた。


――カキン

 間一髪でマナカは大剣を前に出し、ブランゴの飛び掛かりを防いだ。勢いに乗ったブランゴはそのまま大剣の腹に激突して顔が潰れた。同時に衝撃がマナカの腕全身に伝わる。

 安心するのはまだ速い。マナカの死角に動いたもう一体のブランゴがいつの間にか作った雪のつぶてをマナカに投げ付ける。

「痛っ!!」

 石と同じほどの堅さを持った雪のつぶてはマナカの肩にぶつかり、痛みは骨の芯まで届いて砕けてしまうと思うほどだ。
 顔をぶつけたブランゴも再び、予測不可能な動きをする。戦いは長引くが、マナカの攻撃が届かず、徐々に体力を消耗してゆく。

 振り回した腕は限界を感じ痺れ、硬くなってゆく
 重い大剣を避けるときに手放そうとしても、何故か柄と手の間にネンチャク草があるかのように大剣から手を離すことができない。
「くっそぉぉ!!」


 残りの力を振り絞り、大剣を振り上げる。とうとう握力が落ちたのか、手から大剣が抜け、空に飛ぶ。
 回転しながら落下した大剣は、ちょうど真下にいたブランゴに裁きが降されたかのようにその刃は直撃した。絶命までではないが、切り口から血が吹き出る。


 まぐれとはいえ、マナカにとっては初ヒットだ。


「や……やった……」

 白い息を上げ思わず、ボロボロになった手で小さくガッツポーズをとる。残ったもう一体のブランゴを探す。あともう一息と思っていたが、そのブランゴは予想外の行動をしていた。

「ああっ!」

 マナカの足が少年に向かって走りだす。そのブランゴは標的をマナカから少年に向かって飛び付こうとしていた。


 ブランゴと少年の距離は数メートル。体が動かない少年は、ブランゴから見れば確実に獲物を仕留めることができる大チャンスであろう。あのまま噛み付けば少年の命はない。

 少年を助けたい気持ちなのか無意識なのか、マナカの足は走りだす。雪に足跡をつけ、水溜まりを舞い上がらせ、ぬかるんだ土を踏みしめる。地面を蹴って蹴って蹴りまくる。

 その結果、ブランゴと少年の間に入り込むことができた。これで少年が噛み付かれることはない。そして少年の危機を救い、安心したマナカの目の先は……


 ブランゴの口の中できれいに並ぶ、白く輝く多数の牙だった……

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