火竜に継ぐ唄風

プロローグ ( 2 / 4 ) 



 「……まずい! 小タル爆弾だ!!」

 先頭を走っていた防衛隊は反射的に足にブレーキをかけて減速しようとする。
 しかしその状況を確認できない後ろの大勢の警備隊が押してきたため、バランスを崩しながら警備隊という壁に後ろを押されて、小タル爆弾に近づいていく。

「う……うわぁぁぁ!!」

小タル爆弾の爆発と警備隊達の悲鳴が廊下に反響する。あまりにもの大きさに耳を塞ぎたくなる。

 振り向かなくても分かる。見かけ以上に予想外の火力をもつ小タル爆弾は、一つで追い掛けていた警備隊達を軽がると吹き飛ばし、ほぼ全滅させた。

 吹っ飛ばされた防衛隊達は山のように積まれて、追い掛ける者の通路の妨げとなった。同時に落ちたナイトランスはベルのような音を立てて床に落ちた。

 そして少女は警備隊からどんどん遠ざかっていき、通路の暗闇へと消えていく……





――数時間後


「お……追い詰めたぞ、竜姫のマナカ!!」

 他の警備隊に見つかりながらも屋上にたどり着いた少女の姿が、雲の隙間から現れた白い月明かりと共に姿を現す。

 桜色の髪に肩につくかどうかほどの髪は形を整いながらもさらりとしていて外へ跳ねている。また、赤く潤った大きな瞳は、幼さがまだまだ残っている。
 柔らかなピンク色の頬は優しくも、表情一つで悪戯心のような雰囲気も出している。
 わずかに微笑んだその顔は可愛らしさを感じさせる。

 年齢は見た目はまだまだ子供の14歳ほどだ。
 そんな幼い少女が厳重な警備を突破されて希少な宝玉を盗られたら、上官に合わせる目もない。
 そこは、警備隊としてのプライドは許せないのだ。

 暗緑のマントは腰に巻いてあり、そこに隠れていたポーチを開いた。その中には燃えるように紅い、神秘的な輝きをもつ宝玉が、マナカの手の中にある。


「あら? お目当てはこれかしら?」


 隠し持っていた拳ほどの大きさの宝玉をまるで見せびらかすかのように取り出す。宝玉は、柔らかい月明かりでもその光を受け取り、皮肉にもマナカの手の中で輝いている。


「くっ……ギルド内の極秘希少品である炎龍の天宝を持ち出しやがって……」


 存在自体が災いと言われている比較的に強い戦闘能力を持ち、まだいくつか謎が残されている生き物を、ギルドやハンターではそれらを『古龍』と呼んでいる。
 その古龍の中の一種。炎龍や炎王龍という別名を持つテオ・テスカトルから解体して剥ぎ取った素材から今まで未確認で出たのが、『炎龍の天宝』である。
 これは『宝玉』や『大宝玉』よりも美しく、純度が非常に高いらしい。そのため、今までより質のいいこの天宝は、希少品管理館で保存していたのだ。

 現れた白い月は街を照らすが、いつも以上に光が強く、眩しく感じる。

 その光はまるでマナカを応援するかのように後光となっている。そのときだ。



「た……隊長! 火竜です!! 火竜がこちらに来ます!!」
「なんだと!?」


 月夜に照らされ、炎のような、攻撃的な赤い甲殻を纏った飛竜が、屋上に向かって翼を広げて力強く飛んでくる。
 普段は火山や森丘に住んでいるが、街に火竜が来ることは想定外だ。

『空の王者』にしては豪華な登場だとマナカは多少思ったりする。

 屋上がまた影となり空気を切る風が、警備隊とマナカがいる屋上を突風かのように駆け抜ける。

 警備隊のずっしりとした鎧とは逆に、マナカの衣服は風を受けて髪と同時に舞い上がる。火竜は警備隊とは逆に、マナカを挟むように滞空して翼で扇ぐ。
 火竜と目が合い、お互いに見つめる。
 風が吹き続ける中、マナカは微笑んだ。

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×しおり×
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