火竜に継ぐ唄風

プロローグ ( 1 / 4 ) 



  空と自然は深い闇に包まれているが、この大陸の一番大きな街、『ドンドルマ』に明かりは尽きない。

 それは酒場でクエストを受注をするハンターのため。
 人の尽きない通りで力一杯に利益をだそうとする商売人のため。
 家で暖かいスープを作って待っているのか、自宅へ帰る夜を歩く人のため……

 酒場はにぎやかで大の字で横になり、酔いつぶれる者や麦酒の入ったジョッキを鳴らして狩りの勝利を祝う者。

 実にさまざまだ……


 寒冷期に吹く夜風は乾いて湿気を流し、冷たい空気の流れは服を揺らして肌を冷気が突き刺す。
 触れた頬は氷のように冷たい。

 夜風が背中を押して月明かりのみの漆黒の空は地上の物を押し潰すかのようにのしかかる。


 表だけで暮らしている者は全く知らない世界で、気配を全く感じない高い屋根にある人影。
 白く漏れる吐息から緊張感が見え、息を潜めてチャンスをうかがう。


――今だ!!


 月明かりを背に、その人影は動きだす。
 そして誰もいない場所で一つの光が灯る。


 ドンドルマにはハンターでさえ知らない狩猟(ハンターズ)ギルドで管理されている気密な建物があった。その名は……

〜狩猟ギルド希少品管理館〜


 ここはモンスターからギルド側が剥ぎ取って入手したとてもこの世に一つしかないほどの希少性のある宝玉などを厳重に管理されている建物であり、一般人は決して入ることを禁じられているこの建物である。

 そんな人気がなく、静かな場所だと思われているところで大きな罵声が響く。

「まてぇ! 小娘!!」


 何体もの兵士が暗い廊下を駆け、一人の少女を追い掛ける。

 その姿はモンスターの皮や鉱石を使ったガーディアンシリーズに巨大な盾と身と同じほどの長さをもつナイトランス。
 ギルドの警備員であろう、鎧や武器からはガチャガチャと金属揺れる音が不規則に空気が振動する。


 しかし、その巨大な武器と盾を持ったまま狭い通路を大勢で追い掛けるにはかなりの不利だ。
 暗い通路を走るには足元を注意しなければならず、一番の先頭の者のスピードにより、後方の警備員のスピードは変化する。

「あいつら、あんなでかい物を持って追い掛けるとは……」


 警備員の標的である少女は、警備員がそんな状態でもありながら、頑張っているかのように力強い足音とスピードにあきれたような顔をしてため息をつく。
 これでも彼女は走ることにまだ本気ではなく、以外にも余裕を見せているのだ。
 走りながら腰から小さな木製の円筒状の箱を取り出して手に持つ。いわば樽というやつだ。


「捕らえろぉぉぉ!!」

 隊長であろう一人の防衛隊が轟竜(ティガレックス)のような怒鳴り声が廊下に響く。その声は反響し耳がキンキンするほどだ。

 小さな樽を取り出すために足を遅くしたため、背筋が凍るような後ろの鎧や武器がガチャガチャと音を立てる音が大きくなる。

 しかし焦りは見えない。余裕を見せている別の理由でむしろ頬が上がる。

 少女はその箱から出ている太い糸を、通り道にあった灯り用の蝋燭(ろうそく)に素早く火をつけ、同時にその場に捨てる。

 床に落とされたその箱は、淵の金属と石が敷き詰められた床がぶつかり、硬い物同士がぶつかった音を出した。
 その後、横に転がった樽は、通路のちょうど真ん中で止まり、防衛隊を待つように糸を黒くしながら縮めていく……

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