短編集
[女の子](2/6)
「地面」
10月。秋まっしぐら。
1月に彼氏と温泉旅行に行こうって話した。
高校生なんて、バイトしてても貧乏だから、電車賃を節約。
今日は、二駅分早く降りて、のんびり帰ろう。
初めて降りたその駅は、商店街がすぐにあった。
はじめまして、見知らぬ土地。
あ、コロッケ売ってる、、
美味しそう、食べたいなあ
だめだ、いま、節約中だし。
電車賃節約できるのはいいけど、誘惑が多いなぁ。
空はこっくり日が暮れようとしていた。
秋風が吹く。
肌寒い季節だけど、長い距離を歩いているせいか、体はじっとり汗ばむ。
わたしの最寄りの駅まではまだ道のりは遠い。
ふと、道沿いの自転車置き場をみると、小さな女の子が、リードにつながれた犬を撫でていた。
「かわいいね、わんちゃん」
わたしがそう話しかけると、女の子はすこしびっくりしたあと
「でしょ〜!丸もちっていうの!みぃちゃんの誕生日におうちに来たわんちゃん!」
と、笑顔で言った。
みぃちゃん、とは、女の子の名前かな。丸もちは、柴犬だった。
「そうなんだ!お姉ちゃんも、丸もちに触ってもいいかな??」
彼氏の家にも犬がいた、名前はちゃば。ポメラニアンだった。
「いいよ〜」
と、みぃちゃんが言ってくれたので、遠慮なく、丸もちを撫でた。
ひとなつっこいようで、自ら頭を擦り付けてくれた。
「かわいいねぇ」
「かわいいねぇ」
二人で、ニンマリしながら丸もちを撫でた。
「お姉ちゃん、また、丸もち撫でに来てね!」
「うん!またくるね!」
みぃちゃんは、毎日、自転車置き場で、買い物に行ったお母さんを丸もちと待っているらしい。
みぃちゃんと別れた後、わたしは再び歩き出した。
しばらくすると、見慣れた景色が見えてきた。
さようなら、見知らぬ土地。こんにちは、顔見知りの土地。
地面と地面はたしかに繋がっていて、わたしが、生活してないところでも誰かが生活している。
そんなことを、改めて思った日。
1月の旅行がますます楽しみになった。
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