【捧げもの集】
[死に神とコウモリA](1/2)

実を言うと、怖いのです」

そう言って、夜風に目を細める。
コウモリは視線を向け、首を傾げた。

「あんたに怖いものなんてあるわけがない」

「薄々気付いてはいましたが、貴方の辞書に『私への敬意』の文字はありませんね?」



彼は若干一段高い足場に立って、街を見下ろしていた。
そこは時計台と空の境。今宵は風も穏やかで、地上の暖かさがここまで昇ってくるかのようだった。

「それではお願いします」

「・・・」

両手をこちらに伸ばしている死に神を見下ろし彼は溜息をついた。
しかしそれ以外に思い付く方法はなく、暫し考えた挙句、身を屈めてやる。

躊躇いなく首に回される腕に、少しは遠慮を覚えろと言いたくなった。しかしいかんせん、相手は神だ。時間外労働の言葉など、瞬殺で捩じ伏せられて今に至る。
諦めたコウモリはその腰に片腕だけを回して、時計台を蹴った。








は?」

話は一刻前に遡る。

多忙を極めて長らく姿を見せなかった彼女は、突然、前触れもなく現れた。
冗談に付き合わせるなと顔を歪めるも、死に神は逆に、驚いた顔をした。

「貴方みたいな翼もないのですから、飛べる道理がないでしょう?」

鏡などの媒体を使って移動はできても、空は飛べないのだと言い出す。
それはコウモリの知識と矛盾していて。

「宙にいるところは何度も見ているが?」

「えぇ、宙には立てますよ?何なら歩けます」

全く話が掴めない。
眉を顰めるコウモリに、死に神はどう説明したものかと考えながら小さく笑った。

「飛ぶと一瞬の距離でも、歩くと大変なんですよ。地上で言う山登りのようなものです。流石に無理です」

そこで漸く彼女の言いたいことが理解できた。
理解はできたのだが。

「あの辺りまでお願いします、コウモリさん」

いつもと全く違う趣旨の指令に、彼は思わず言葉を詰まらせた。



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