愛月撤灯
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01
「ミヤビ、お前カウンター中入れ。」
『はぁ?』
「酒くらい出せるだろ。」
拒否する間もなくケイさんはお客さんをカウンターに案内して、私を見る。
『ーーいらっしゃいませ。』
何をどうすればいいのか。
初めて入ったカウンターはピカピカに磨かれてる。
いつもシュンが座ってる椅子が隅にあって、シュンのタバコが置いてある。
シュンの場所だ。
「これ、着とけ。」
渡されたのは黒のパーカー。
『はい。』
何で大人しく従ってるのか。
「仕事帰り?」
お客さんは楽しそうに私を見てる。
『ーーはい。すみません、ちょっと待って下さいね。』
パーカーを羽織って袖を通してーー安心感に包まれた。
これ、多分シュンのだ。
「この店人遣い荒いから。
後で給料請求しなよ。てかシュンは?」
お客さんはケイさん見ながら笑ってる。
「シュンはサボりです。
代わりにソイツこき使おうかと。」
「あぁ、シュンの彼女?
贅沢だねこんな可愛い子。」
「シュンのくせに生意気でしょ?」
あーぁ、ケイさん勝手に言っちゃったよ。
ちょっとやめて欲しい。
シュンは嫌がるだろうし私がバラしたなんて思われたくもない。
『何飲みます?』
オーダーを聞いてグラスを出す。
何か変な感じ。いつもシュンが見てる景色を私も見れてるんだ。
「ミヤビ!灰皿新しいの持ってきて!」
ケイさんがこっちを見てる。
当たり前のようにこき使いやがって。
セット料金とってやろうか。
『よく来るんですか?』
仕方なく《 接客》を始める。
「仕事帰りにね。シュンに愚痴聞いてもらいに。」
ーーへぇ。
「あれで聞き上手だから。」
『なんか分かります。』
「でも自分のことあまり話さないから。
彼女が見れるなんて今日来てよかった。
もしかしてーー《 華音》の子?」
『そうですけどーー』
「あぁ。やっぱり彼女だったんだ。
この前、時間ある時使ってやってください。って言われたから。」
本当に声、掛けてくれてたのか。
一緒に飲みながらシュンの色々な話を聞いてたらドアのベル音。
『いらっしゃーー』
一応の仕事モードで入口を見ると、シュンが私を見ながら苦笑いしてる。
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