僕が引きこもりを始めたのには理由がある
[壊れていく少女](1/1)


 僕は倒しかけた体をばっと起こした。その画像を開いて、拡大して見る。

 鮮血を浸して書いたような真っ赤な文字が、凶暴にのたうっていた。次の獲物を見つけた喜びに、体をくねらせるみたいに。

 雪谷を……く、喰っただって? 嘘だろ……しかも名指しで、アイの事が書いてあるぞ!

 次の狙いがアイで、確実に『喰う』事を予告してるって事だ

――――――

(あい)  『え、え? 嘘……イヤだ! 私……ゴメン。雪谷くんと繋がってたの……それで《だいじょぶ?》て聞いただけなんだよ? そしたらこれ送られてきた……怖いよ、怖いよ、みんな!!』

(マリア) 『落ち着いて! なんにもないよ! ただのイタズラとかに決まってるから』

(トシカズ)『そうだよ、そうだよ。アイ、僕たちがいるからね!』

(一夜)  『でもさ、なんかすげえリアルだよな……』

(マリア・トシカズ)『イチヤ!!』

(あい) 『ねえ、どうしたらいい? どうしたらいい!? 怖い怖い怖い!!』

――――――

 パニックになったアイは、もう感情に溺れている。誰の問いかけにも反応せず、怖いを連投するしか出来ていなかった。

 だがそれが、パタリと止む。

 不気味な静寂に、僕は唾を呑み込んだ。たぶん他のやつらもそうだろう。

 その中で、最も勇気のあるマリアがアイに呼び掛ける。

――――――

(マリア) 『アイ……ねえ?』

(あい)  『……わ……』

(マリア) 『わ?』

(あい)  『わ……わ……わ……』

――――――

 奇妙な繰り返しの「わ」。まさか恐怖のあまり、壊れてしまったわけじゃないよな……アイのやつ。

――――――

(マリア) 『わからないよ? 何が言いたいの?』

(あい)  『……わ……た……』

(マリア) 『わ・た? わたって何?』

(あい)  『……わ……た……し……の……こ……と……』

――――――

 何かの文を伝えたいのか。その奇妙なつぶやきに、マリアすら沈黙してしまう。

――――――

(あい)  『わたしのこと……きにかけてくれるの だあれ?』

――――――

 童謡のような言葉。普段から子供っぽいアイなら書きかねないけれど、今は不気味でしか無い。

――――――

(あい)  『わたしのこと……きにかけてくれるの だあれだ? ねえ、はなしかけてくれないの?』

――――――

 全文ひらがなの誘い。怖い。そう言われると、逆に誰も指を動かそうとしない。

 アイを本気で心配しているトシカズが、恐怖に打ち勝って、メッセージを送ってきた。

――――――

(トシカズ)『アイ……どうしたんだよ。みんな気にかけてるじゃないか』

――――――

 その言葉が契機となった。

 予告なしに、スタンプがひとつ送られてきた。

 それはドクロだった。口から血を流している不気味な骸骨。

 そんな物は百パーセント、アイが持っていないはずの絵柄だった。アイコンの横に「アイ」の名前があるのが信じられない。

 ひとつ、ひとつと繰り返し送信されるスタンプのドクロ。それは速度と数を増していく。

 やがて下から上に流れる洪水のようになった。誰もメッセージを挟むことが出来ない。

 スマホが壊れる! 皆がそう思った。その刹那、ピタッとスタンプの連打が止まった。

――――――

(あい)  『は、は、は、はなしかけてくれて、ありがとう。みーつけた。つぎは、ア・ナ・タ♪』

――――――

 そのメッセージに覆いかぶさるように、送られてきた写真が――。



- 9 -

前n[*][#]次n
/14 n

⇒しおり挿入


⇒作品?レビュー
⇒モバスペ?Book?

[編集]

[←戻る]