東京剣士
[東亰府お預かり](1/1)


江戸へ出てきた斎藤一は、永倉道場の食客となった。朝ふらっと出かけて行き、夕方頃にいつのまにか戻ってきていると言った具合だ。永倉には、一体何を考えているのか分からない。


「斎藤……帰っていたのか」


薄暗い井戸で顔を洗う斎藤を見つけ、永倉は縁側から声をかける。斎藤は手ぬぐいを顔から離して振り向いた。


「永倉さん……ただいま」


新選組時代に一度も見たことないような斎藤の笑顔は、永倉の顔を誤魔化しの効かない度合いまで引きつらせた。


「時尾が飯作って待ってる」


それだけ伝えると、永倉は逃げるように部屋に戻っていった。残った斎藤は手ぬぐいを丁寧に畳むと、下を向いたまま夕食に向かった。


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