東京剣士
[猛者の剣と無敵の剣](1/17)
五月、斗南の朝はまだ冷える。井戸へ顔を洗いに行き、帰ってくると、先程まで居た愛しい妻が、見覚えのある、凛々しい男に変わっていた。
「手合わせ願いたい」
木刀を投げ渡される。おう、と答えて、着替えに走る。
衣装箱が一つ出ていて、懐かしい色の羽織の端がはみ出している。
「浅葱色……」
こんなに燻んだ色だっけ。あの頃はもっともっと鮮やかな色をしていた気がする。寄れた袖をさすっていれば、せっかちな元同志が、迎えにやってきた。
「遅い!待ちくたびれた。切腹させるよ」
部屋に乗り込み、俺の背中に覆い被さる。全体重をかけているな……見た目よりも重たく感じるのは、筋肉量のせい。首に回った腕を解くと、その手は俺の右手に重なる。
「これ……私の…………」
そのまま、俺の手を払いのけて、羽織を掴む。
- 53 -
前n[*]|[#]次n
⇒しおり挿入
⇒作品?レビュー
⇒モバスペ?Book?
[編集]
[←戻る]