HOPE ・ADDRESS
[哲学者の怒りーレイジ・オブ・フィロソファーー](1/1)

 4月の初め。日比谷公園は花見客で賑わっていた。フェアリーベンチも、それに合わせ、忙しくなっていた・・・というわけでもなく、
ミホ「あーーあ。お客さん全然こなーーい。」
ユーヤ「しょうがねえだろ。お花見シーズンにこんな海の近くじゃあ。」
 ユーヤ達が今いるのは、神奈川県横須賀市のヴェルニー公園。すぐそばが海というこの時期は人がほとんどいない場所だ。
 いつもキッチンカーを止める日比谷公園は、花見客で混雑するからしばらくはここで営業しないでくれと管理人に言われて追い出されたのだ。
ショーキ「当てが外れたな。この時期ならがっぽり儲かると思ってたのに。」
マリー「あ、ちょっとショーキ!少しは手加減してよ!」
 2人はスマートフォンの対戦形式のホッケーのゲームで遊んでいた。すると、
「すいません。今営業中ですかね?」
 四十代くらいのラフな格好の男性が、ノートパソコン片手にやって来た。
ショーキ「あ、はい。少々お待ちください。」
 スマートフォンを片付け、接客の準備をする。すると突然、
ダンセイ「ちょっと君達。」
ー?ー
ダンセイ「どう見ても中学生だよね?」
 ショーキとマリーを見て言う。希望の数列(ホープ・アドレス)という謎の多い物を5人に渡し、人の記憶までいじれるマリーは別として、ショーキは正真正銘今年で中学2年である。
ショーキ「ええっと・・・その・・・。」
 本当の事を言えないてまえ、言い訳に苦しむ。それを見かねたか、
ケーゴ「僕の親戚の子なんですよ。こっちの金髪の女の子はハーフで。」
 とっさにごまかす。
マリー「そ、そうそう。暇だから春休みの間はおじさんのお店手伝ってるの。」
ミホ「にしても、どうしていきなりそんなこと。」
ダンセイ「ああ、自己紹介がまだでしたね。私は門木晋也(かどきしんや)。そこの中学校で教師をしていまして。」
ユーヤ「ああ、それで2人のことについて質問を。」
シンヤ「職業柄、こういうのはどうしても気になってしまいまして。」
 ボサボサの頭をかいて照れくさそうに言う。
 それからシンヤはコーヒーを一杯頼むと、ショーキとマリーと色々話していた。パソコンで学校関係の事務の仕事をするつもりだったらしいが、それすら忘れて話し込む。
 接客の必要がなくなり、他の4人はのんびりとしていた。ユーヤとミホは先程ショーキ達がやっていたホッケーのゲームをしていた。3ー2であと1点でユーヤがリーチとなったそのとき、
シンヤ「君!学校に行ってないのか!?」
 突然シンヤが叫んだ。ショーキ達の学校生活の話になったらしい。
ショーキ「はい・・・。前の学校でいじめにあって。今は籍も入れてないんですよ。」
シンヤ「そういうことか・・・。」
 しばらく悩んだ後、ショーキの肩に手をやり、
シンヤ「私の学校に来ないか。始業式までまだ一週間以上あるから、それと同時に編入できる。どうだ?」


 その日の夜、ショーキは毎晩泊まっているカプセルホテル側の自販機にもたれかかっていた。
ーーーシンヤ「私の学校、九山(きゅうざん)中学は思いやりの精神に溢れた学校さ。絶対に気に入ってもらえると思うんだ。その気になったら連絡してくれ。いつまででも待ってるぞ!」ーーー
 昼間のあの男の言葉が頭をよぎる。でもすぐに行きたいとは思わなかった。
 あのときの自殺未遂で、もう学校に行かなくていいと思ったら正直清々した。それなのに、あの教師の言葉を鵜呑みにして、またいじめられる立場になったらどうする。それこそ本末転倒だ。
 そもそも絶望の数列(デストロイ・ナンバー)が自分が学校にいるときに出たら?1人いないだけで苦戦するのは新海の大猿のときに経験している。だったら学校なんて・・・。
メグミ「悩んでるの?」
ー!ー
 いつの間にかユーヤとメグミが隣にいた。缶コーヒーを手渡し、
ユーヤ「絶望の数列のことが引っ掛かるのか?それ以前に前の学校のことか。」
 ショーキがカクンとうなずく。
 あの残酷な言葉達は、一字一句鮮明に覚えている。
ーーー「つーかさ、お前うぜえんだけど。」
「じぶん何でも知ってますー♪っていう態度が超ムカつくんだけどー。」
「聞いたよー。この前チャリ2人乗りしてた先輩注意したんだってー。それチョーキモいんですけどー。」
「それでは、ショーキ君が、『お前ウザすぎんだよ』の罪で『サッカー部の先輩達にボコボコリンチ』の刑になったらいいと思う人てー上げて♪・・・はい、賛成多数で有罪ケッテー!」
「ホンットテメエムカつくんだよボケッ!」
「さっさと死んでくれよ。そしたらお前んちにきくの花持ってってやっからよ。」
 ギャハハハハ!アーハハハハ!ーーー
ショーキ「学校なんて・・・。」
 思わず涙が出そうになる。2人の手前、ごまかそうとコーヒーを一気飲みしようとする。
ショーキ「うあっち!」
ユーヤ「結局行きたくねえのか。」
ユーヤ「当たりまえだろ!自分よりずっと幼稚な連中にバカだのアホだの言われて!何の役に立つか分からない事ばっか勉強して!でもってそれができなかったってだけでその先の人生お先真っ暗!そんな経験1年もすれば十分!」
 逆ギレ同然で学校を罵倒する。すると、
メグミ「人生なんて一生そんなもんよ。」
ー!ー
メグミ「たとえどんなにすばらしい大きな岩に生まれた人も、砕かれて削られて、最後にはなんてことのない砂粒になって死んじゃう。人の社会はそういう物よ。」
ユーヤ「おいおい、そんな事言ったら説得に」
 手でユーヤを止めて話を続ける。
メグミ「つまり人生ってのは、そんな事の中でいかに楽しめるか競うゲーム。そして心の底から楽しむには自分からハンマーに叩かれにいくようなまねするのが一番の近道なの。」
 ショーキの方を向いたその顔は優しく微笑んでいた。一方のショーキは、
ショーキ「・・・絶望の数列は?俺が学校にいるときに出たらどうするの?」
メグミ「気にしないの。バロム1だって小学生やりながら怪人倒してたじゃん。」
ー?ー
メグミ「・・・ちょっと待って。今のは例えが古かった。忘れて。」
ユーヤ「今の・・・俺にも分からなかったぞ。」


 九山中学の始業式当日。2年3組の教室ではクラス替えで一緒になった友人同士がテレビ番組やゲームなどの話をしていた。
シンヤ「おーい。席着けー。」
 そんな教室にシンヤが入ってくると、生徒達は各々の席にそそくさと座る。シンヤは今日も動きやすいスポーツ用品店のロゴが入ったジャージだ。そして教壇に上って、
シンヤ「朝のSTの前に、みんなに重大なお知らせがある。九山中に転校生が来るんだが、それがなんと!この2の3の一員となるのだ!」
 えー!うそマジ!どんな子かなー?
 突然の発表に生徒達が騒ぎ出す。
シンヤ「それじゃ、入って来てくれ。」
 ガララッ!
 ドアが開き、1人の少年が入ってきた。他の生徒同様、紺色の学ランを着たショーキだ。
シンヤ「みんなに自己紹介を。」
ショーキ「あ、はい。」
 白いチョークを手に取り、黒板に名前を書き、
ショーキ「緑瀬翔貴(みどりぜしょうき)です。よ、よろしく。」
 おー!ねえ、あの子ちょっとかっこよくない?スポーツとかできるのかな?
 転校生が男子だと知ったからか。女子生徒を中心にまたざわつき出した。
シンヤ「はいはい、質問タイムは後で。もうすぐ始業式だから廊下並べー。」
 それから5分後、ショーキ達は体育館に集まっていた。校長の話、春休み中の部活動の表彰と続き、生徒指導部としてシンヤが壇上に上がった。
シンヤ「えー、生徒指導からの話だが、」
 今までの経験から、義務教育8年目のショーキは、非行をするなだのいじめをするなだのといった話を、長々と話すものだと思っていた。が、
シンヤ「それについては、非行やいじめをするなよって事だけだから、あとは余談をする。姿勢楽にしていいぞー。」
ー?ー
 公の話を適当に済ませてあとは私的な話をする?聞いたことのない展開に思わず、
ショーキ「ねえ。あれ一体どういうこと?」
 前の男子生徒に聞く。
ダンシセイト「ああ、門木先生はいつもあんな感じに面白い話をするんだ。週に1度は余談だけの授業があるよ。」
 開いた口がふさがらない、変わった男だと思った。


ショーキ「で、それから10分近くその漫画の感想を話続けてたんだ。」
 その日の夜、大手の回転寿司のチェーン店で、ショーキは自分の担任の話をユーヤ達5人にしていた。
 400人強の生徒のいる体育館で、シンヤは漫画の感想を延々のべ続けたのだ。
 過去の世界からタイムスリップした怪物を倒すという話で、登場人物のある男性が1度はその戦いで命を落としてしまうが、彼のことを密かに思っていた女性が自分の命と引き換えにその男性を生き返らせたという話で、自分も大事な家族や生徒を命がけで守りたいと総括した。
ケーゴ「また変わった人がいるものですね。」
 その前代未聞の教育者にややあきれぎみにお茶をすする。
ミホ「でもどうしてそんなことするんだろうね。」
ショーキ「それなんだけど、」
 彼もそれは疑問に思っており、その日の帰りにシンヤを捕まえて尋ねていた。その答えは、
ーーーシンヤ「簡単な事さ。ああいったたわいのない話から授業では手に入らない事を知ったり感じたりしてほしいのさ。教科書に載ってる事しかやらないと、勉強しかできないなんでもない人間になりかねないからね。」ーーー
マリー「ふーん。」
メグミ「そういう先生もいるんだね。」
 そう言う2人は寿司の流れるレーンをにらみ続けている。デザートのケーキを待っているのだ。
ユーヤ「ま、とにかくよかったじゃねえか。」
ショーキ「ああ。あの学校なら楽しくやってけそう。」
 笑って歯を見せた。
 ちょうどその頃、九山中の職員室で、
「門木先生。ちょっといいですか。」
シンヤ「あ、はい。」
 残って資料を作っていると校長の橋下憲彦(はしもとのりひこ)に話しかけられた。別に残業をねぎらうわけではない。
ノリヒコ「何のつもりかね今朝の話は。生徒指導の話もそこそこに読者感想文など。しかも漫画の感想など聞いてあきれた。」
シンヤ「・・・お言葉ですが、」
 椅子からすくっと立ち上がり、
シンヤ「ああいう学校とは何の関わりのない物から得られる知識や感動こそ、本当に価値のあるものではないでしょうか。」
ノリヒコ「つまり、君は教科書に書いてあることは何の価値もないゴミくず同然だと言いたいのかね。」
シンヤ「いえ、そういう訳ではなく、勉強では得られない物も子供達に取り込んでほしいと」
ノリヒコ「何をバカな事を言うんだ君は!」
 机を叩き、シンヤの発言を止めた。
ノリヒコ「いいか!ここは私立の学校なんだぞ!ほっといてもガキがホイホイ入ってくる公立とは違うんだぞ!生徒の学力を上げ、少しでもいい高校に行かせないと食えなくなるんだぞ!」
シンヤ「だからといって、あんな学力上昇ありきの教育カリキュラムでは子供達が」
ノリヒコ「かわいそう?知ったことか!教師の仕事は、バカなガキに文部省が詰め込めといった事を詰め込ませること。ガキの仕事はただそれを享受すること。それ以上は時間と労力の無駄だ!」
シンヤ「なんてこと・・・!そんなことは教師の言う事じゃ・・・。」
ノリヒコ「それが教師だよ。君のようにすぐに子供が一番だと言うのは哲学者か子煩悩と言うのさ。」
 完全に話は平行線だった。そしてノリヒコは背を向け、
ノリヒコ「君は生徒に人気もあり、前の勤め先でもいい働きをしたと聞く。今年度で2年目なのだからできれば望んで本校の校風に馴染んでほしいね。」
 そう言って部屋を出ていくその背中を、シンヤは歯ぎしりして見るしかなかった。


 新学期が始まってから2週間がたった朝。学期初頭の学力テストが終わり、部活もサッカー部に決まったショーキが職員室にやって来た。
ショーキ「失礼します。サッカー部の緑瀬です。器具庫の鍵を返しにに来ました。」
シンヤ「おお、ショーキ君!おはよう。」
ショーキ「おはようございます!」
 いつも通りのジャージ姿のシンヤに腰を曲げて挨拶する。
シンヤ「どうだ?もうこの学校にも慣れてきたか?」
ショーキ「はい。おかげさまで。」
シンヤ「そうかそうか。それはよかった。」
 嬉しそうにうなずくと、ショーキから鍵を受け取り、
シンヤ「器具庫だったね。戻しておこう。君は先に教室にいってなさい。」
 そうしてショーキが職員室を出ようとしたそのとき、
「門木先生!」
 1人の女性教師が血相を変えて入ってきた。
シンヤ「どうしました円谷(つぶらや)先生。そんなに慌てて。」
ツブラヤ「今すぐ1の4に来てください!大変なことになってるんです!」
ー?ー
 なにがなんだか分からなかったが、相手の慌てぶりからただ事ではないのは分かった。シンヤは急いでその女教師とともに問題の教室に向かった。ショーキも流れでついて行く。
 そして1の4の教室についた。シンヤが中へ飛び込み、
シンヤ「これはどういうことですか!橋下校長!」
 公園で1度だけ聞いたことのある叫び声に、ショーキが廊下側の窓を開けてなかを見る。
 そこにはきれいに着席した生徒の前で向かい合うシンヤと校長がいた。その後ろの黒板にはでかでかと『全員退学』と書かれていた。
ノリヒコ「この通りだよ。このクラスの生徒をうちの生徒でなくするんだ。」
シンヤ「一体何があったらそんな極端な事になるんですか!」
ノリヒコ「理由は1つ。このクラスの生徒はあきれるほど勉強に関心がない。だから退学にする。」
ツブラヤ「あ、あの・・・。」
 廊下で見ていた円谷が口をはさんだ。
ツブラヤ「うちのクラスは別にそんなこと」
ノリヒコ「なぜわからんのだね!」
 教卓を強く叩き、
ノリヒコ「前回の学力テスト、このクラスの平均点は65.7!他の3クラスは70点を越えているのにこのクラスは」
シンヤ「ちょっと待ってください!」
 今度はシンヤがノリヒコの台詞を止めた。
シンヤ「たったそれだけで1クラス全員を退学にする?そんな話聞いた事も」
 バキャアン!
 キャー!
 突然ノリヒコが手元にあった花瓶でシンヤを殴り付けた。女子生徒達が悲鳴を上げる。
ノリヒコ「まだ分からないのか!ガキの仕事は高い学力をつけること!それができなきゃガキなんて何の価値もないんだよ!そんなこともわからん理想主義者はこの学校にはいらん!さっさとでてけ!」
 あまりに横暴な台詞を吐き捨て、頭を押さえてうずくまるシンヤを蹴り付ける。
「ねえ、これは貴家にヤバくない?」
「警察呼んだ方がいいよな。」
 他クラスから集まってきている野次馬達がざわつき始める。その中の教師達が誰も動こうとしないところが、シンヤが学校全体で浮いた存在なのが分かる。
 これはさすがに通報した方がいいな。
 ズボンのポケットからケータイを出そうとしたそのとき、
シンヤ「本当に・・・この学校に・・・いらないのは・・・」
 ノリヒコの足を払いのけ、立ち上がる。そして、
シンヤ「お前のような人を見る目がないやつだ!」
 鬼のような形相になっていた。その手には絶望の数列(デストロイ・ナンバー)の黒いカード。
ショーキ「門木先生、やめて!」
シンヤ「融合(エンチャント)!絶望の数列1953!魔神の狼牙メチルクイックシルバー!」


 ウオオオーン!ウオオオオオオーン!
ショーキ「・・・こいつはまずいぞ。」
 半壊した校舎の屋上から校庭を見下ろしてショーキは青ざめていた。
 大型トラックほどの大きさの、赤い目をした無機質な銀色の体の狼が走り回っている。
 ユーヤ達には10分ほど前に連絡しているが、東京からここまで来るには1時間はかかるはず。
ショーキ「それまでは俺だけで時間稼がねえと!融合(エンチャント)!希望の数列(ホープ・アドレス)1909!聖なる裁判官(セイントエクスキュージョナー)ジュングン!」
 ピカアアア!
 光の膜を突き破り、黒服に2丁拳銃のショーキが屋上から飛び降りる。
 バキュン!バキュン!
 落下しながら狼に発砲する。が、
 とぷん。こぷん。
ー!ー
 銃弾は水にでも落ちたような音をたてて狼の体を貫通した。
 ウオオオーン!
 そして着地したショーキに狼が爪を降り下ろす。
 スバンッ!
 間一髪回避したが、後ろの木は真っ二つになった。
ショーキ「このっ!」
 バキュン!バキュン!バキュン!
 とぷん。こぷん。こぷん。
 銃弾の当たった部分は円形に波打ち、やがて何もなかったかのようにショーキの焦った顔をきれいに写し出した。
ショーキ「つまり、こっちの攻撃は一切効かず、向こうは攻撃し放題ってわけか。」
 ユーヤかミホがいれば、炎か電撃でダメージを与えられるかもしれないのに。そう思った矢先、
 あああー!
ー!ー
 バキュン!
 後ろから襲いかかってきたセーラー服姿のゾンビを撃ち抜いた。
ショーキ「ああもう!らちが明かない!」
 手数で攻める兵隊がショーキをさらに焦らせる。すると、
 ウオオオーン!オオオオーン!
 狼が遠吠えした。するとゾンビ達が目の前のショーキを無視して東に向かい出した。その先は、
ショーキ「体育館!避難した人達から仕留めるつもりだ!」
 ダンッ!
 ゾンビの大軍の真上をジャンプして先回り。手当たり次第に撃っていく。
 だがほとんどが撃ち漏らされ、体育館側面の扉を引きにかかる。
ショーキ「くそっ!数が違いすぎる!」
 ゾンビからいったん距離をおく。集団に殴られたり噛まれたりしたため、全身血だらけになっている。
 ウオオオオオオオオオーン!
 すぐ後ろで、狼が勝ち誇るように吠える。座ったまま、攻撃するでもなくただショーキを見下ろす。
 なんなんだよ・・・。命がけで大事な生徒守りたいんじゃなかったのかよ。何真逆のことしてたんだよ。
 悔しい気持ちが止まらない。銃身を握る力が強くなる。すると、
 コオオオオ。
ー!ー
 下の方で風の吹く音がする。足下を見ると銃口の真上で小さなつむじ風が吹いている。
 今までの戦いで、この銃が弾切れしないというのは把握していた。これだけとは思ってはいなかったがまさか・・・。
 ゆっくりと銃口を狼に向ける。そして引き金に指をかけ、
 ドウンッ!ドウンッ!
 ブオオオオオオッ!
 弾丸の代わりに突風が狼の体を飛散させ、いくつもの銀色の水滴に変えた。
ショーキ「やっぱりこういうことだったか!」
 ショーキの顔に自身が戻った。だが、
 こぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ・・・。
 水滴が集まり、もとの狼に戻った。
 ウオオオオオ、ン?
 遠吠えした頃には、ショーキは体育館へ向かって走り出していた。
ショーキ「体育館のゾンビ!この力ならまとめて吹き飛ばせる!」
 ドゴオオン!バキイッ!ズバズバン!ビキキキンッ!
ー?ー
 扉に集まっていたゾンビ達が吹き飛び、斬られ、氷付けになる。
ミホ「お待たせ!」
メグミ「よく1人で持たせた!」
ショーキ「え?電話してまだ10分ちょっとしかたってないけど。」
ユーヤ「たまたま近くで営業してたんだよ。今日も日比谷の管理人にダメって言われて。」
ケーゴ「にしても今回の敵・・・。」
 グラウンドから走ってくる銀色の獣を見て、
ケーゴ「そこまででかく感じませんね。」
ミホ「ビルくらいでかいスライムとかお猿さんとか見てるからね。」
ショーキ「気を付けて。物理攻撃は効かないんだ。どうにかできるとしたら、ユーヤの炎か、ミホの電撃か・・・。」
ユーヤ・ミホ「よし!」
 ボオオオオオオッ!バチチチチチッ!
 燃える日本刀と電気が走るハンマーで襲いかかる。が、
 スパン!スパパン!
ミホ「あれ?」
ユーヤ「そのまま通り抜け」
 バキキイッ!
ユーヤ「ぐわっ!」
ミホ「きゃあっ!」
 2人が手の甲で校舎の方へ弾き飛ばされる。
 ドカアアン!ブシャアアアア!
 そのまま石の蛇口に激突した。水道管が破裂し、水が吹き出す。
 オオオオオオーン!
 銀の巨体が動けない2人に向かってくる。そして、
 ぴっ!ギャオオオオオオオオ!
ー?ー
 吹き出す水の壁を通ろうとした瞬間、目の前で突然悶えだし、体から白い煙を吹き出した。
メグミ「もしかして・・・水が弱点とか?」
ケーゴ「え?ここまで来てそんな・・・。」
ショーキ「なんにせよこれは行ける!」
 バキュン!バキュン!バキュン!
 狼に向かって銃を撃つ。そして向かってきた狼をどこかに誘導するように逃げていく。
ユーヤ「何する気だ?」
ミホ「なんかあるんだよ。ショーキっち頭いいから。」
 そして、
 アオオオオオオオーン!
ショーキ「こっちだこっち!」
 体育館のすぐ横を通ってその横の建物へ。
 バキンッ!ドカン!バキャン!
 いくつもの扉を突き破り、広い部屋に出た。水が並々張った室内プールだ。
 グルルルルルル・・・。ガル?
 辺りを見渡すが、先を走っていたショーキが見当たらない。すると、
 ジャキキッ!
ー!ー
 頭上で音がした。建物2階、窓越しにプールを見る部屋からショーキが銃を向ける。窓が割れており、ジャンプして蹴破って入ったのだ。
ショーキ「チェックメイトだ!」
 ドドウンッ!
 風が銀の巨体を吹き飛ばす。その一粒一粒が落ちる先は、水の入った25メートルプール。
 ギャオオオオオオオオオオオオオオ!
 パアアア・・・!
 白い光が完全に消えたのを確認し、ショーキはベルトのホルスターに拳銃を戻した。


 それから数日後、久しぶりに日比谷公園にフェアリーベンチがオープンした。
マリー「よかったわね。お花見シーズンが終わっていつもの場所で営業できて。」
ユーヤ「んなわけあるかよ。その期間の収入当てにしてケータイも5人ぶん買ってるんだから。早く遅れを取り戻さねえと。」
 実質の経営責任者のユーヤはやや荒れぎみだ。すると、
「おやおや。久しぶりだねえ。」
ミホ「あ、おばあちゃん!久しぶり!」
 リピーターの老婦人がやって来た。ホットコーヒーを1杯注文して、こちらで用意したテーブルで風景画を書いているのだ。
オバアチャン「ここんとこ見なかったから、つぶれちゃったと思ったわ。」
ミホ「んもう!冗談きついなあ。いつものでいいね?」
 キッチンカーの厨房から顔を出して言う。
オバアチャン「そういえば・・・。」
メグミ「どうかした?」
オバアチャン「いつものあの男の子・・・ほら・・・」
ケーゴ「ショーキ君のことですか?」
オバアチャン「そう!今日はいないけど、どうしたの?」
 あの後九山中学校は、騒ぎを生き残った生徒や教師達が校長の行き過ぎた行為の数々を世に発表し、廃校となった。当然、それでショーキも1度は行き場を失ったのだが、
ユーヤ「あいつなら、学校ですよ。」
オバアチャン「あ、それもそうだ!今日平日ですものね!オホホホホ!」
 一方その頃、江戸川区の坂月(さかづき)中学校では、
「えー皆さん。今日からこの2の1に新しい仲間が加わります。」
 えー。うそマジ!どんな奴かなー。
 若い女教師が発表すると、教室がざわめき出す。
キョウシ「はい静かに。それじゃ、入ってきて。」
 ガララッ!ドアが開き、黒い学ランを着た少年が入ってきた。先生に自己紹介するように言われ、黒板にチョークで名前を書いていく。そして、
ショーキ「はじめまして。緑瀬翔貴と言います。よろしく!」


 
 
 
 

 




 



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