HOPE ・ADDRESS
[献身的兄妹愛](1/1)

ユーヤ「ええっと。Bランチセット1つにホットコーヒー1つで、お会計840円となります。」
 3月半ばの日比谷公園。ミホの気まぐれでクレープ屋からバーガーショップになった。フェアリーベンチが営業していた。当初は戸惑っていた6人も、慣れてきていた。
「すいませーん。」
ユーヤ「あ、はい。」
 客が来た。50代くらいのパーカー姿の女性だ。
ジョセイ「A ランチセット3つにお子様ランチセット7つ。」
ユーヤ「はい。お持ち帰りでよろしかったでしょうか。」
ジョセイ「いいえ。ここで。」
ー?ー
 意外そうな顔をしていると、女性がテーブルに座った子ども達を指差した。そこではケーゴが1人の女の子となにやら話していた。5歳くらいの茶髪の女の子だった。
ケーゴ「ねえ君、お名前は?」
オンナノコ「山口瑠奈(やまぐちるな)!で、こっちが理巧(りく)お兄ちゃん!」
リク「ど、どうも・・・。」
 控え目な挨拶を隣の兄がする。妹同様茶髪だった。
ジョセイ「私、こういうものです。」
 ユーヤに1枚の名刺を出した。
ーー児童養護施設神様のゆりかご院長、鹿嶋怜子(かしまれいこ)ーー
ユーヤ「あ、なるほどそれで。」
 大量の注文をその場で片付けると言った理由が分かった。
メグミ「かわいいお子さん達ですね。」
レーコ「でしょう!」
 空いた席からトレイを持ってきたメグミに笑顔でいう。だが2人はその笑顔に何か裏があることをすぐに知ることになる。
レーコ「どうです?1人引き取りませんか?」


ミホ「それ、絶対絶望の数列(デストロイ・ナンバー)が出てくるフラグじゃん。」
マリー「ホント、悪人だらけで困るわね。東京って。」
 その日の夜、都内のファミレスでピザのチーズを伸ばしながら言う。
ユーヤ「あのレーコとか言う孤児院の人か。子供思いの良い人じゃねえか。」
ショーキ「馬鹿だなあ。子供いりませんかだなんて初対面の人に言う孤児院がどこにある。」
ユーヤ「そういうもんなのか?」
 コーヒーをすするのを止め、少し考えてみる。そして、
ユーヤ「お前はどう思う、ケーゴ。」
ケーゴ「え!僕ですか!」
 スプーンでコーヒーの砂糖を混ぜる手を止めた。
ケーゴ「うーん・・・。そんなこと言われても・・・僕には」
 ピリリリリリ!ピリリリリリ!
 携帯電話が鳴った。フェアリーベンチ当ての電話だ。
ユーヤ「はい。こちらフェアリーベンチです。・・・え?あ、ああ。分かった。」
 急に敬語を使わなくなったと思うと、
ユーヤ「ケーゴ。お前に電話。」
ケーゴ「僕ですか?」
 ユーヤから電話を受け取り、相手と会話する。相づちを打って電話を切ると、
ケーゴ「リク君から。」
ミホ「それって、昼間仲よくなった施設の子?」
ケーゴ「ええ。そのリク君の妹、ルナちゃんが、」
マリー「が、どうかなったの?」
 聞くと不安そうな顔で、
ケーゴ「いきなり里親が決まって、今にも連れていかれそうだって。」


レーコ「はいルナちゃん。お兄ちゃんとバイバイしましょーねー。」
ルナ「やだやだ!お兄ちゃんと一緒がいい!」
 児童養護施設神様のゆりかご。その正面玄関。ルナは里親の目の前で、必死に抵抗していた。何の騒ぎだと、向かいのマンションから野次馬が出てきていた。
リク「ああああ、どうしよう・・・。」
 後ろでやきもきしていると、
 キイイイー!
 一台のキッチンカーがやって来た。ユーヤ達だ。
ユーヤ「すいません!ちょっと通してもらえませんか!」
 野次馬達を押し退け、事の中心人物達のもとへ。
リク「お兄ちゃん達!良かった来てくれた!」
「な、何ですかあなた達!」
ミホ「リクっちの知り合い!」
 里親らしき男にぶっきらぼうに答える。
レーコ「あなた達、昼間の」
ケーゴ「一体どういう事ですか!里親が決まっていきなり兄妹を引き剥がすなんて!」
 驚くレーコに唐突に食って掛かった。
 その後は兄妹を離ればなれにさせたくないユーヤ達と、どうしても養子の話しを白紙にしたくないレーコで、言い争いが勃発した。いつも控え目なケーゴが良くしゃべっていたのが、遠くから見ていたマリーには不思議に思えた。そして、
レーコ「とにかく!これは合法なんです!これ以上騒ぎを大きくするなら、警察を呼びますよ!」
 この一声がユーヤ達5人を黙らせた。
リク「お兄ちゃん・・・。」
 不安そうな顔で彼らを見上げる。ごめんよとでも言いたげな顔でケーゴが見下ろす。
サトオヤ「ちょっといいですか。」
 男がそう言って名刺を差し出した。ーー株式会社KGYコンサルタント代表取締役加木屋政人(かぎやまさと)ーー
ミホ「これって要は、社長さんってこと?」
メグミ「変なやつじゃないって訳ね。」
 彼らの不安要素を取り除いたマサトは腰をかがめ、リクの肩に両手を置くと、
マサト「大丈夫。時々ルナちゃんを連れて遊びに来るから。」
 リクも、心配そうな顔をしながらもこれでおとなしくなった。そしてルナを乗せた黒い外車はその場を走り去った。


 翌朝、フェアリーベンチが開店準備中の日比谷公園で、
ショーキ「うーん・・・。何か変なんだよなあ・・・。」
ユーヤ「おいショーキ。ケータイいじってねえで手伝え。」
ショーキ「いや、ちょっとこれ見て。」
 他の5人を集めて画面を見せる。ルナの里親となった男、加木屋政人の会社のホームページだった。会社の経営方針や実績の紹介が主で、下の方には、慈善団体への募金活動もしているとあった。
メグミ「何よ。お金持ちな上に優しい、良いお父さんじゃないの。」
ショーキ「そうなんだけど・・・何か引っ掛かるんだよなあ・・・。」
 頭を抱え、考えを巡らす。すると、
ケーゴ「僕も、ショーキ君と同意見です。この話、何か変ですよ。」
 ケーゴも続く。
マリー「そういえば、ケーゴにしては珍しいわね。こんなにあれこれしゃべるなんて。」
ケーゴ「え、そうですか?」
ミホ「そうだよ。いつも黙りこくってばっかりなのがケーゴっちなのに。昨日もあの院長に言いたい放題だったじゃん。」
ユーヤ「どういう風の吹き回しだよ。あの兄妹になにか思い入れでもあんのか。」
 ユーヤが聞くと、理由を語り出した。
ケーゴ「妹が1人いるんです。ただ、小さい頃に両親が離婚して、離ればなれになったんですけど。それで、あの2人の話しを聞いたら居ても立ってもいられなくなって。」
 そういうことかと他の5人は納得した。そしてしばらくの沈黙の後、
ミホ「そういえばユーヤっち。ひき肉買ってくるの忘れたから買ってきて。」
ユーヤ「お前空気読めよ。わーったよ。買ってくる。」
 そう言って車の運転席に乗り、ひいきにしている業務用スーパーへい行こうとした。すると。
ユーヤ「ん?何だあれ。」
 人影が1つ、こちらに走ってくる。最初はよく分からなかったが、近づくにつれ、その茶色の頭髪がはっきりとしてきた。。
ケーゴ「リク君!」
ミホ「リクっち!」
リク「はあ、はあ、良かった今日もここでやってた。」
 息を切らして言う。ユーヤも車から降り、
ユーヤ「まさか、あそこから抜け出してここに?」
リク「うん。頼みがあって。」
メグミ「そういえば、昨日どうやってうちに電話かけてきたの?」
リク「これだよ。」
 ポケットから1枚の紙を出しその場で広げた。フェアリーベンチでトレイに敷いている塗り絵付きの紙だ。下の方には電話番号も書いてある。
ショーキ「ああ、これか。」
ミホ「人生、何が幸いするか分からないね。」
マリー「で、頼みって?」
 本題を切り出すと、リクが真面目な顔をし、
リク「ルナのお父さんになったあの男の人のこと、調べるの手伝って欲しいんだ。」
ー?ー
 意外な頼みに、少し間を置き、
ケーゴ「どうしてそんなこと・・・。」
リク「今日の朝早く、先生がおしゃれして出掛けていったんだ。」
ユーヤ「それが何だよ。そんなに不思議な事じゃねえじゃん。」
リク「今日だけじゃないんだよ。施設の子が引き取られた次の日は必ずそうするんだ。それで、1日帰って来ないんだ。」
ー!ー
 妙な話だった。特に子供がもらわれた翌日というのが引っ掛かる。
ケーゴ「・・・別に調べるのは構わないけど・・・。」
リク「けど?」
ユーヤ「もし犯罪に絡んでくるなら、まともな方法じゃあ無理があるんだよなあ。」
ショーキ「いや。」
ー?ー
 自信に満ちた顔で、
ショーキ「案外簡単に分かると思うよ。」


 その日の昼頃、日比谷公園近くのネットカフェ。フェアリーベンチの男性陣3人とリクは個室のパソコンの前にいた。
ユーヤ「で、一体何しようってんだお前?」
ショーキ「いやあ、まあ・・・。」
 また自信満々の顔で椅子に座って、
ショーキ「悪いこと。」
 と言う。これでピンときたのか、
ケーゴ「まさか、ハッキング!」
ショーキ「しっ!声がでけえ!」
リク「できるの?そんな映画みたいな事。」
ショーキ「まあね。」
 そう言うと、キーボードをカタカタと音をたてて打っていく。しばらくして、画面上に細かい字で書かれた表が出てきた。
ユーヤ「これは?」
ショーキ「東京都の住民表だよ。ちょっと待ってて。」
 表の加木屋性をしらみ潰しに見ていく。ところが、
ショーキ「・・・ないな。」
ケーゴ「ないって・・・何が?」
ショーキ「加木屋瑠奈の戸籍だよ。法律上山口瑠奈は加木屋政人の子供になったから、加木屋性のはずなんだけど、それが見つからないんだ。」
ユーヤ「マサト本人の籍は?そいつが他県の人間かもしれないぜ。」
ショーキ「いや、そいつの戸籍は見つかった。世田谷区の住民だ。」
 画面を見て顔をしかめる。するとホーム画面に戻り、またキーボードを打つ。今度は数字ばかりの表が表れた。
ケーゴ「今度は?」
ショーキ「あの孤児院の院長の預金口座だよ。これが昨日の12時頃、ルナちゃんがもらわれる前のやつ。」
 428万7230円。そう記してあった。
ショーキ「で、これが今日の朝7時頃のやつ。」
ー!ー
 5617万8320円。たった一晩で10倍という変わりように開いた口がふさがらなかった。
ユーヤ「なんじゃこりゃ!一体何でこんなに儲かったんだ?」
ケーゴ「株でもやってるのか・・・それとも宝くじが当たったのか・・・。」
 驚きを隠せないという顔で身を乗り出して画面を見る。すると、
ショーキ「人身売買。」
ー?ー
ショーキ「あの女がルナちゃんを例の社長に金で売ったんだ。」
ー!ー
ユーヤ「ちょっと待てよ!」
 あまりにもとんだ話にユーヤが食って掛かる。
ユーヤ「ここ平成の日本だぜ。人を金で売り買いするなんて」
ショーキ「ありえない?俺達だってここ最近はありえないことばかりじゃないか。」
 もっとな話にそれ以上の反論は言えなかった。
ケーゴ「じゃあ、これを印刷して警察に提出しましょう。ルナちゃんを助けられる。」
ショーキ「バカ!そんなことしたら俺達までしょっぴかれるぞ!第一、加木屋がいわゆる仲買人で、海外のバイヤーにでも売られてたら手のだしようがねえ!」
ユーヤ「まじかよ・・・。」
 真相にたどり着いたにも関わらず万事休す。ショーキも席を立ち、帰ろうとしたそのとき、
ケーゴ「あれ?リク君は?」
 リクがいつの間にか個室からいなくなっていたのだ。最初はトイレにでもいったのかと思ってしばらく待っていたが、いつまでたっても戻って来ない。
 そこで3人は店中を探し回った。が、
ケーゴ「ダメだ。どこにもいない。」
ユーヤ「嫌な予感がするな・・・。」
 3人は店を出て、日比谷公園へと向かった。女性陣と合流するために。


メグミ「つまり、当初の嫌な予感が的中したと。」
マリー「しかもリク君が絶望の数列(デストロイ・ナンバー)の所持者の可能性もあると。」
 午後3時、ユーヤ達6人はフェアリーベンチの営業を早く切り上げ、神様のゆりかごへ向かっていた。キッチンカーで走ること10分、目的地が見えてきた。が、
ユーヤ「また野次馬がいやがる。」
ミホ「ワゴン車やパトカーもいっぱいいる。何でだろう。」
 車から降り、野次馬を押し退けていく。すると見えてきた神様のゆりかごの様子は尋常ではなかった。立ち入り禁止のテープが張られ、内側で鑑識や刑事らしき人物が現場検証をしていた。窓ガラスは割れ、血痕が飛散し、ユーヤの足下にはやっきょうが転がっていた。
「こちら現場の永島(ながしま)です。」
 アナウンサーか、スーツ姿の女性がカメラに向かって実況していた。
ナガシマ「本日午後2時頃、こちらの児童養護施設から銃声がすると近所の方から110番通報があり、駆けつけた警察によって役員3名と児童20数名の死亡が確認されました。通行人の方からは、銃声の後、青緑色の鳥のようなものが西へ飛んでいったとの目撃情報が多々あり、事実確認を調査中です。」
 今のユーヤ達にとって貴重な情報をたんたんと述べた。
ミホ「西って・・・。」
ケーゴ「世田谷区!加木屋の家がそこにある!」
ユーヤ「そこに行こう。リクが絶望の数列だとしたら、そこでも何かやらかしてるかもしれねえ。」


「ひいいいい!」
「に、逃げろおおお!」
 日付の変わり目の横浜港。停泊している貨物船の船室で、ルナは両手を後ろ手で縛られて、男達が射殺されるのを見ていた。
ルナ「お、お兄・・・ちゃん・・・。」
リク「もう大丈夫だよ。ルナ。」
 ルナは泣いていた。金で売られ、外国に連れていかれそうになった恐怖もあったがそれ以上に、返り血で真っ赤になった異常な兄の方が恐ろしかった。
リク「今はずすよ。」
ルナ「ねえ、お兄ちゃん。」
 後ろに回ってロープをほどく兄に尋ねる。
ルナ「一体どうしちゃったの?お兄ちゃん、何か変だよ。」
リク「僕はね、知ったんだ。」
ー?ー
リク「大人なんて信じるに値しない。レーコのババアも、加木屋って男も。」
ルナ「何かしたの・・・ 。その2人に。」
リク「殺した。」
ー!ー
ルナ「お兄ちゃん!ほんとに何か変だよ!一体どうしちゃったの!」
 必死に叫ぶ。だが今のリクには届かない。
リク「ルナ。君は一生僕が守る。」
ルナ「お兄ちゃん!」
リク「君の幸せの為なら何だってする。」
ルナ「お兄ちゃんってば!」
リク「君を泣かすような奴は、1人残らずこの手で殺してやるさ!」
ルナ「もうやめて!お兄ちゃあああん!」
 涙を流して絶叫した。そのとき、
ー!ー
 リクの表情がこわばった。
ルナ「どう・・・したの?」
リク「外の様子を見てくる。ここから動くなよ。」
 そう言い残し、船室から甲板に出た。そこには、
ユーヤ「やっぱりここだったか。」
 白色のテンガロンハットに黒いスーツの5人組がいた。
リク「よくここが分かったね。」
ショーキ「世田谷の加木屋の家から、何か青い物が南に飛んでいったっていう証言があったからな。」
ケーゴ「そんなことより、」
 一歩前に出て、
ケーゴ「リク君。持っているんでしょ?絶望の数列(デストロイ・ナンバー)。」
ミホ「それはとっても危ない物なの!」
メグミ「今からでも遅くないから捨てて!」
 それぞれが説得を試みる。だが、
リク「何?お兄ちゃん達は僕の味方じゃないの?」
ケーゴ「味方だ。だからこそ君を怪物にしたくない!」
リク「黙れ!この力があればルナを守れるんだ!ルナを泣かす汚い大人を皆殺しにできるんだ!それを取り上げようとするなんて!」
 ポケットから黒いカードを取りだし、胸元で構えた。
リク「融合(エンチャント)!絶望の数列1933!解体の黒騎士ゲットー!」
 ピカアアア!
 カードからは紫色の光。足下から黒い膜が包み込む。
ミホ「ああ!やっちゃった!」
ユーヤ「おいおい、今までの猿やスライムみたいなデカブツだったらどうする!」
メグミ「飛び降りて!船ごと沈められる!」
 5人があわてて甲板から飛び降りた。だが船には何も起こらなかった。
 すると青緑色の人影が船のふちに立った。背中に蝶の羽が生え、両手が機関銃になっている少年だ。
リク「立ち上がれ亡者達よ!ルナを傷つけた罪を、その肉体で償え!」
 ああー。あああー。
 船の中から、コンテナの陰から、ゾンビの大群がやってくる。
ユーヤ「くそっ!囲まれた!」
ショーキ「あいつ!」
 バキュン!バキュン!
 二丁拳銃をリクに向けて撃つ。が、
 バササアッ!
 背中の羽で飛んで回避した。
リク「アハハハハハ!当たらないね!」
 ガガガガガガガガガ!
 そして空中から機関銃を撃ってくる。
ケーゴ「わわわっ!」
メグミ「やりにくいったらありゃしない!」
 5人は、空からの銃撃をかわしながら地上のゾンビの対処をするという不利な状況に立たされた。唯一飛び道具を持つショーキが何度かリクに発砲してみるがことごとく避けられる。そして、
ユーヤ「はあ、はあ。くそっ!」
 ユーヤが余りますその場から動かずに戦うようになっていた。まるで右足をかばうかのように。
ケーゴ「ユーヤさん!もしかして撃たれたんですか!」
ユーヤ「俺のことはいい!それより」
 バキイッ!
ミホ「ああっ・・・!」
 後頭部めがけて降り下ろされたゾンビの鉄パイプからユーヤをかばった。頭を押さえ、眉間にシワを寄せる。
ショーキ「ミホ!」
リク「ハハハハハ!まずは2人い!」
 ジャキンッ!
 動けない2人に銃口が向けられる。
メグミ「待って!お願いだから撃たないで!」
リク「アハハハハハ!アーハハハハハ!」
 ガガガガガガガガガガ!
 数えきれない鉛弾が飛んできた。そして、
ユーヤ「・・・え?」
リク「な、何だあの壁は!」
 ユーヤとミホの前に、彼らを守るように透明な壁が出現し、銃弾を防ぎきった。
ミホ「何だろこれ?」
 おそるおそる指先でさわると、
ミホ「冷たっ!」
ユーヤ「氷?一体誰が。」
 他の3人の方を向く。ショーキは茫然と立ち尽くし、メグミは半泣きで力なく崩れていた。
 そんななか、槍の穂先を氷の壁に向ける男がいた。ケーゴだ。
ケーゴ「・・・許せない・・・。」
ー?ー
ケーゴ「適当な理由をこじつけて、見境なく人を傷つけるなんて・・・。絶対に許さない!」
 決意に満ちた顔で槍の穂先を空中のリクに向ける。
 ビキビキビキビキイイン!
 そこから一本の氷柱が少年に向かってかなりのスピードで伸びていく。
リク「ふん!」
 羽をはばたかせ回避する。
ケーゴ「まだまだあ!」
 氷柱がねじ曲がりリクを追う。それをリクがさっそうとかわし、
リク「アハハハ!当たらないねそんなクズ氷!」
 この余裕の高笑い。そして、
ケーゴ「本当にそうかな?」
 こちらも余裕の笑み。
 ビキビキビキビキビキビキ・・・。
 氷柱が二またに別れた。さらにそうして生まれた2本の氷柱がそれぞれ別れて四またに。さらにそれらが別れて八また、十六、三十二、六十四またへ。
リク「これは・・・。」
 いつの間にか無数の氷の柱が少年を取り囲んだ。おまけにその一本一本が、先端を鋭く尖らせている。
ケーゴ「いっけえええええええ!」
 ドガガガガガガガガガガ!
 すべての氷柱が少年を貫いた。


ユーヤ「はい。A ランチセット1つにフェアリーシェイク1つでお会計790円となります。」
 あの戦いから2週間、ユーヤ達6人はいつも通りフェアリーベンチの経営に勤しんでいた。
 あの後、兄を失ってこの世にたった1人になったルナがどうなったか、ユーヤ達は知らない。すぐにやって来た警察から大慌てで逃げたからだ。そのためか、
マリー「ケーゴ。・・・ケーゴー。・・・ケーゴ!」
ケーゴ「え!あ、何か」
マリー「またぼさっとして!空いた席からトレイ下げてきて!」
ケーゴ「は、はい!」
 この有り様。そのとき、
「すいません。」
 青いセーターの五十代くらいの女性がやって来た。
ユーヤ「はい。ご注文ですか。」
ジョセイ「A ランチセット3つとお子様ランチセット7つ、いただけるかしら?」
 どこかで聞いたことのある台詞。
ユーヤ「はい。お持ち帰りでよろしかったでしょうか?」
 前にも言ったことのある台詞。すると、
「ううん!ここで食べる!」
 聞き慣れた少女の声がした。驚いて身を乗り出し、女性の足下を見ると、
ユーヤ「ルナちゃん!?」
 その声に他の5人全員が反応した。
ミホ「うそ!ルナっち!」
ケーゴ「ルナちゃんどうしてここに!?」
ジョセイ「あら、みなさんルナちゃんのお知り合いでしたか。」
 すると女性は鞄から名刺入れを取りだし、
ジョセイ「私、こういう者です。」
 ーー児童養護施設こうのとりの翼役員佐々木信子(ささきのぶこ)ーー
メグミ「あ、施設の。」
 どうやらあの後、新しい施設に入ったらしい。
ルナ「あのね、みんなでお散歩行くって言うから、私がここオススメしたんだよ!」
 嬉しそうに笑顔で話す。この前の事も、トラウマになっていないか解消してしまったようだ。
 これでケーゴも2週間ぶりに使い物になる。そう思うとユーヤも頬の筋肉が思わず緩んでしまった。
 
 

 




 



- 3 -

前n[*][#]次n
/605 n

⇒しおり挿入


⇒作品?レビュー
⇒モバスペ?Book?

[編集]

[←戻る]