病と硝子
☆[病と硝子](1/1)
愚にもつかないショートショートです。
彼の母は、硝子を伸ばしてきらきら細工をする人で、輝く魔法の指先へ、彼は激しく憧れた。
母は優しい女だったが、右半身に傷害があり、発作を起こすと次々硝子を割ってしまって、一人息子をも罵った。
悪魔に憑かれた右半身の狂騒が朝に収まると、母は決まって少女のようにさめざめ泣き、輝く硝子の海のなかで、怪我した息子を抱きしめた。
右半身に取り憑く悪魔は大したもので、母は聞いたこともない卑猥な冗句や惨い罵倒を口にして、彼女のつくる硝子細工をすべて壊してしまうのだった。
彼はやがて大きくなり、医者になって、母から憎い右半身に住まう悪魔を切ろうとした。
けれど切り取った部位からはとめどなく血が噴きだして、右半身も左半身も死んでしまった。
彼は次々母に似た人の患部を切ったが、皆血を噴いて死んでしまった。
母や、母に似た人たちのつくる繊細で青く拙い硝子はどれもこれもが砕けていた。その死を悼んでくれるのは、彼ひとりしかいなかった。


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