月の印

[契約](1/4)


街から少し外れた所にある廃ビル。

殺伐とした外見からか、寄り付くものは少ない。

このビルの屋上は少女のお気に入りの場所だ。

今は役目を果たしていない空調機の隣にある小さな物置。

その上に少女は腰掛け、白み始めた空を見上げている。

暗い夜空に太陽が現れ、その光が闇を飲み込んでいく……。

少女はそれを見るのが好きだった。

何分経っただろうか。

少女は何かの気配を感じて身を固めた。

それと時を同じくして、少女の目の前に男が現れる。

赤銅色の髪…背中には黒くて大きな翼。

「みーっけたっ!!」

男は嬉しそうに笑いながら言った。

少女は男を一瞥すると、空の方に視線を戻す。

少女は翼や、宙に浮いている男を見ても、格別驚きはしなかった。


だが、表情の薄い少女の顔に、不満の影が浮かんでいる。

男は笑顔のまま少女に話しかけた。

「ねぇ、今度は逃げないの?」

「………」

少女は空を見上げたまま動かない。

男は少女の態度など気にせず話しかける。

「ねぇ、君なんて名前?」

「………」

「ここに住んでるの?」

「………」

「いくつ?」

「………」

めげずに男は質問を続けるが、いくら話しかけても口を開こうとしない少女を見て、諦めたようだ。

口を閉じると、静かに宙を歩いて少女の隣まで行き、その場に腰掛けた。

長い沈黙。

通りを行き交う車の音だけが、虚しく響く。

男がただひたすら待っていると、少女はおもむろに口を開いた。

「おまえ…あの白い羽の奴らと同じ類か。」


男は驚いたように少女を見た。

「君、守護天使が見えるのか…。」



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