月の印

[少女](1/4)


現世。



「ま〜った面倒な事に巻き込まれちゃったよ…。」

そう言うと男は赤銅色の髪をかきあげ、近くの電信柱の上に器用に立った。

背中には大きな黒い翼。

周りにはビルが立ち並び、夜の暗闇にネオンが輝いている。

先程いた薄暗い城の雰囲気とのギャップからか、男は目をしばたかせながら足下を見下ろす。

足元を行き交う人々は、止まることを知らないらしい。

「うるさい所……。」

そう呟いて、男は気だるそうにその場に座り込んだ。

「よりによって、何でこんな街……。酔っ払いとヤクザしかいないような所なんてねー………。」

大きなため息をついて首を垂れると、男の耳に騒音が飛び込んできた。

思わず目線を声のした方へ向ける。

「てめェ…馬鹿にすんなよ!!金はてめェが払え!!」

汚い罵声。

男は再びため息をつき、下を覗き込んでいた体勢を元に戻す。

「何かと思えば……オヤジの喧嘩か……。」

そう言って首を振る男がふと視線を移すと、一人の少女が目にとまった。

「………ありゃ?」

素っ頓狂な声とは裏腹に、男の目には危険な輝きが宿っていた。

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